氣の呼吸法


氣の呼吸法―全身に酸素を送り治癒力を高める (幻冬舎文庫)
藤平光一氏の「氣の呼吸法」を読み終えた。
スーパーの駐車場を利用した時に、駐車券用のちょっとした買い物に入り、ブックコーナーで目に留まって買ったものである。


メンタルの技術において、身体の側から働きかけるツールは、呼吸がその大半を占めているように思う。


高妻氏の著書で紹介されていたので、ジム・レーヤーという人の「メンタル・タフネス」という本を手に入れて、ぱらぱらと読んでいる。
この本は、邦題からはわかりにくいが、原題は「Take a deep breath」という。その名の通り、1冊丸ごと呼吸の技術について書いている(珍しい)本である。
へえ、そんな方法もあるか、と効果のほどはよくわからないながら、様々な技法がずらずらと紹介されており、そこには著者の東洋への関心が満ちている。
そのままではわかりにくいかもしれない、東洋に伝わる呼吸法を、今や西洋流の見方の方に馴染んでいる我々に、わかりやすく説明し直してくれている、という側面があって面白い。

実戦メンタルタフネス(精神力強化)―心身調和の深呼吸法

実戦メンタルタフネス(精神力強化)―心身調和の深呼吸法


平氏のこの著書は逆に、ああ吸え、こう吸え、こう止めろ、というような「技法」に走ることには意味がない、とばっさりと言い切る。
呼吸とはつまり身体にとってどういう仕組みの行為なのか理解することを説き、正しい姿勢の取り方と、呼吸を行う際の意識の置きかたについてシンプルに説明する。
書かれていることは、ごくわずかなことで、それさえ正しく行えるようになれば、それで身体の機能が自ずと好転してゆくという。
やってみると、そんな気がするから、こういうのは不思議である。


どちらも「テクニック」と大きく括ることができて、目指す方向も似ているにも関わらず、ジム・レーヤー氏と藤平氏の間には、海ひとつ横たわっているような印象である。
そして、どちらにもそれぞれ親しみを覚える。


整体でお世話になっているOさんの指摘の通りで、最近(この半年くらいだろうか)、腹筋周辺に疲労が溜まる。
呼吸や重心が、上がってきているような違和感がある。
何か日常的に取っている姿勢や動作の中に、それ以前と変わってきているものがあるのではないか、と疑っている。
平氏の薦める、姿勢の取り方と呼吸を心がけている間は、腹筋周辺が緩み、落ち着く感じがするので、何か合うものがあるのではないか、と思う。
しかし、意識せずに長く続けることができない。


ところで、この本は広岡達郎氏が解説を書いている。
ゼネラルマネージャーとしては明瞭な失敗をされて、以後は長く表舞台に現れることのない氏であるが、選手・監督としての流儀は、今の時代であれば人々にまた異なったものとして映るものだったのではなかろうかと、懐かしくその名を読んだ。


植芝盛平中村天風という系譜に藤平氏は連なり、広岡氏は荒川コーチを経て氏とつながっていた。私のプロ野球に関する記憶の中では、最も古い層にある人たちの名前である。
野球の選手が、武道や仏道から鍛錬のヒントを得たり、実際にそこで修行したりするというエピソードは、当時から幼いなりに知っていて、テレビ漫画の世界のことかと思ったら実際にそうなんだと、子供心に面白がっていた。
当時それらを見ていた眼差しは、子供のものだけでなく大人たちのものも、まじないの一種のように受け取る、興味半分のものが多かったのではないだろうか。


理解を得るための工夫が「当事者」の中で新たに行われてきたことはあるかもしれないが、技術・技法は基本的には「昔からあった」ものだ。
さらには、その意義を見出して学ぼうとした「門外の者」も、昔からいた。
こういった営みが、人々に広く大まじめに受け止められるようになったのは、子供だった私も含め、周囲の「受け取り方」や「評価の仕方」が変わってきたから、である。


スポーツと武術的なものとの関わりとともに、広岡氏もまた、そしてさらには、人の評価というもの全般もまた、そういう移ろいの中に浮かんでいることを思わずにはいられない。


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