SH2を体験する


今日は、昨日に引き続いて午前中いっぱいまで練習を見た。
たかだか1日くらいだと、尋ねられることに答えていくことはできても、こちらから何らかの改善を持ちかける、ということはまずできない。自分がその姿勢をとっているつもりになって、あれこれ考えてみるばかりである。
改めて助言をする立場になって観なおしてみると「坐って撃つ」ということが、実に巾の広い動作であることがわかる。体幹をどのくらいコントロールできるか、という障害の度合いに制約を受ける部分があるのだろうけれど、そればかりでなく、標準的にはこういう座り方がいいのではないか、といったことがあまり整理して追求されてきていない、ということもあるようだ。各射手の「フィーリング」レベルに留まっているようで、いろいろ質問してみても、なるほど、というのにはなかなか巡り当たらず、少し心許ない。


いくら目の前で実際に撃っているとはいえ、内的なものを想像するには限界がある。自分でやってみるのが早い。
今回は自分のエアライフルを持ってきているので、練習の終わり間際、休憩に入りかけた選手に頼んで椅子と机を使わせてもらって撃ってみることにした。見ているだけでは最もその感触がわかりにくいSH2クラスの、シリンダーとスプリングで銃を支える射撃をやってみる。以前に広島で講義をしたときに、SH1では当てはまる部分が多いけれど、SH2は銃を支えているのが身体でないのでちょっと違うかもよ、というような話をKさんにされて、気になっていた。果たしてどのくらいスプリングは身体の一部と感じられるか、静止を導く「行為」が自分でコントロールしている感覚としてできるのか、あくまでも現象を間接的に操作している感じになるのか。
銃重心から5cm以内で支えないといけない、というルールがあって、もちろん重心より前で支えて身体側に銃を受けるようにするのだけれど、どの方向にも比較的自由に銃が動く状態でそのコントロールを競うようになっている。スプリングの上には8cmのシリンダーを介すことになっていて、繊細にバランスをコントロールすることが競えるようになっている。この首の構造のために、銃を支えるスタンドは結構な高さになる。肘をつけるテーブルの面に置くと、借りた男性射手のスタンドでは私にはちょっと高すぎた。一番低いスタンドを使っているという女性から借りて、それでやっと合う。これももうこれ以上は低くできないいっぱいいっぱいの低さである。海外の選手もみんなこういうミニ三脚のようなので撃っているの?と尋ねると、やはりテーブルに穴をあけて下から支える工夫をしている選手が結構いるらしい。構え方にはいろいろバリエーションがあるのだろうけれど、可動範囲が上限に偏っているらしいことは少し気になるところだ。


さて、構えてみると、なかなかしっくり来ない。右半身だけで作る姿勢であるからビームの肘射ともまた違うものだ。どこに障害があるかに応じて取るべき戦略が相当に変わることはわかる。初めてであるし、あまり仮想の制約を設けずにやってみた。やはり自然と、足裏をしっかり床に付け、体幹のエリアに銃全体がたくさん収まるように、やや身体全体は右に向くように座る、肘射の基本的な姿勢に近い座り方になる。構えながら、この姿勢は首が回旋できるとか、体幹を傾けて維持ができるとかが必要なので、こういう姿勢を取れない選手も多くいるのだろうなと頭をよぎった。標的に体幹が正対して体幹面から垂直に銃が出ていくようなフォームで、非常に強い選手もいるというから、本格的に指導するなら、想定しなければならないケースが相当に多様であることが容易に想像できる。とりあえず左腕は肘だけついて前腕をテーブルに投げ出しておいて、グリップ・バットプレート・頬付け・そして支持台の4点をあれこれ操ってバランスや狙点、銃の反応を探った。坐ってしまっているので、細かく身体全体を動かす、というのがいちいち大層だ。「高さ」もスタンドを介して合わせる必要があるので、右肩の高さで合わせるべき範囲か、それともスタンドを変えるべきかが考えどころとなる。そんな訳で、自然狙点の微調整がなかなか難しく、1発弾を出すまでにずいぶんと時間がかかった。障害者射撃も同じように新しいファイナルのルールが適用されるというから、観客側に向き直ってから2分で本射というのが、我々以上に重いかもしれない。もし可能ならもう少し低いスタンドを試してみたいところだな、とかいう印象だったが、一応「整った」ので撃ってみた。支えているスプリングの方へ荷重を加えるような微調整を入れてみると、しっかり応えて受けてくれる感覚がある。
「これは、仲良くなれそうだな」
シリンダーとスプリングは結構「身体の延長」と感じ取れるものだった。私がやっているのと「同じ」だと感じることができた。まだ、若干しっくり来ていないのをごまかしながらであったけれど、5発立て続けに撃って標的を戻す。後ろでは、今回の合宿参加選手たちが取り囲んで見守っていたから、変なグルーピングだったらどうしようかと緊張したけれど、きれいな1ホールだった。


やってみて、個別にかなりいろいろな戦略を取りうることが改めてわかり、すぐには気のきいたことは言えないと感じる。ただ、SH2も決して「別物」ではないということを体感できたことは大きい。


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