障害者スポーツ射撃連盟強化合宿

練習風景



パラリンピックの代表候補選手が集まる強化合宿が、能勢で行われた。
シドニー大会で監督も務められた大学の先輩、Tさんが選手強化の中心的な役割を果たしておられる縁で、技術的なアドバイスを依頼された。以前にも広島で行われた合宿に招かれたことがあり、選手やスタッフの多くとはよく知った間柄である。
Tさんが現役部員に標的の交換などを手伝う支援員を依頼したところ、後輩たちが6名も手伝いに来てくれた。


合宿自体は金曜日から始まっていて、今日土曜日はダブルマッチの記録会だった。国際大会の出場資格を得た新規参入選手が複数現れたため、これまでの選手たちにこの人たちを加えて代表チームを再編することになり、今回はその第一次合宿、という意味合いを持っている。
14時からの2射群目に合わせて会場入りし、様子を見て回りながら、後輩と情報交換をした。16時ごろからはファイナルの練習になり、10m射場に選手・スタッフが勢ぞろいした。開始2分前に客席に向かって挨拶しなければならない新ルールは、狭い射座の中を車椅子で動かなければならない障害者射撃にとっては、なかなかシビアな変更である。ピストル・ライフル混在のファイナルは、学連員のNくんの鮮やかな機械操作で、スムーズに運んだ。


Tさんは仕事の関係で夜まで不在なので、片付けの合間にSさんから各射手の状況について詳しく聞いて、夜の講義に備えた。選手たちには現在の状況を振り返るためのアンケートを渡してもらう。
講義は特に部屋を取るわけでなく、夕食後にロビーのソファコーナーに集まってすることになっていた。
その講義を聞きたいのですがいいですか、と支援に来ていた後輩たちが尋ねてきた。夕食をどこかで食べて、その時間に合わせて宿舎に来るという。咄嗟には、学生と今回の合宿メンバーはずいぶん講義の相手としてはちがう気がしたので、内容がしっくり来るかどうかわからないよ、と答えたけれど、それでいい、というのでOKした。チャンスがあれば何でも聞きたいという姿勢も、私の話す内容に期待を抱いてくれることも、ともにとても嬉しいことである。


少人数の固定的なメンバーの中で競っている、現在の障害者射撃の状況について、外部だから言えるちょっと辛口の分析で話を始めた。
10mの伏射競技をメインにする選手が多いので、自ずとその周辺の話が多くなった。得点的に上に詰まっている種目に特有な、自らの実力把握の難しさ(おもには自己評価が甘くなりがちなことについて)がテーマになる。
実は10mの伏射に限ったことではないのだけれど、少なくともこの種目はスコアとしての600点をゴールや目標と思っていては全然ダメである。あまり良くなくても、600点は出てしまう、そういうものである。600点は出たり出なかったりではダメで、いつも出るのは当たり前で、その内容や質に(グルーピングの小ささ、ということだけを言っているのではなく)興味関心の中心があって、「どんな状況下でもそれが出せる」ことのために練習をする、という風にならないと話にならない。同じ10m伏射で、それなりの経験と実績があったお陰で、具体的に突き詰めた話ができた。


自戒も込めて健常のカテゴリーにいる自分のことに引き比べて言えば、ワールドカップクラスの10mの立射はすでにこの域に入っている。日本の代表チームがメダル争いでお話になっていないのは、何も障害者射撃だけではないのである。目指すパフォーマンスがどういうものかが描けて、どこで試行錯誤するのかが分かってこないと、勝負以前にほんとうの意味で舞台に上がることすらできない。


ほかには、ノートを中心に、言語化することの重要さと難しさ、量が質に転化するまで何となく様にならないノートを書き続ける時期を潜り抜けないとダメだというようなことなどを話した。
終わり間際にはTさんが到着した。後輩たちは、ずいぶん内容をおもしろがってくれた。初めてこういう合宿に参加した「新メンバー」の人にも、射撃がスポーツなんだなあ、ということが初めてわかった気がしました、取り組みが変わりそうです、と言ってもらえた。お役に立てた気がして、ほっとする。


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