取材依頼が来た


昼休みの教室というのは、ほんとうに騒々しい。放送委員が音楽をかける合間にトークを披露しているし、生徒たちはその音に負けじとあちらこちらで声高に話し、ある一団は追いかけっこをしてばたばたと走りまわる。そんな訳で、教室の内線電話では細かい情報のやりとりは難しいから、どこそこに来てくれ、という程度の単純な用件でしか普段は使わない。


そんな中で、電話が鳴った。何かなと出てみると、外線だという。
作業服の業者かな、保護者かな、新聞社?これまでにお世話になってる日日かな、違う、え、全国紙じゃないの、なんで?
後ろがうるさいので、ちょっと大きめにしゃべってください、とお願いしながら、切れ切れに聞こえる話をつなぎあわせると、取材をしたい、ということだった。
何の件でかと、訝しく思ったけれど、射撃のことだという。珍しいスポーツであるし、ということがあるようだ。もっと強いのがたくさんいますけれど、なにで私のことをお知りに?と確かめたら、どうも地元の体育協会の広報で目に留めてくださったらしい。じゃあ国体の話だな。


国体の種目は、国際種目と異なる国内ローカル種目が混じっている。ニッチな種目も同等に扱ってくれるのがいいところで、そういうことがあるから「団体戦」として特別な迫力があり、「総合体育大会」としてこの上ない舞台であり、スポーツイベントが普遍的に持つセレモニー的なものだけでなく、独特のプレッシャーなども国内にあってたくさんの選手に体感させることのできる試合になっている。
ただ、その成績の評価、というのは大会を離れると種目によっていろいろと見方が分かれるものであろう。「国体で1番=日本で1番」は、嘘ではない。けれど、だから日本代表になってオリンピック、特に、国際種目でないものは、そういう図式とは(無縁ではないのだけれど)違う世界にある。そこが、どのくらいうまく伝えられるか、がっかりされないか、ということが一番気になる。


社会部のスポーツを担当する人だというだけあって、言いにくそうにそういうことを伝えると、そういう事情はすぐ察した上で具体的な日程の話になった。思いもよらなかったけれど、嬉しい依頼だった。


電話が終わったら、「何の電話やったん?」と心配そうに後ろに生徒が立っていた。大きな声で、込み入った話を長いことやっているのが、ちょっと鬼気迫る感じだったのかも知れない。あの喧騒の中で、よくこれだけのやりとりが無事できたものだ。


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