存在の耐えられない軽さ


存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)
ミラン・クンデラの「存在の耐えられない軽さ」を読み終えた。


作家の文体のためか、訳のリズムのためか、なかなかはじめはうまく「読み」がかみ合わない感じでもどかしかったが、よそよそしく感じられた登場人物たちが、まずはサビナ、そしてフランツ、次にテレザ、そして最後に中心的な位置に置かれたトマーシュと、徐々に私の中でリアリティを獲得して、面白くなりながら読み進めることができた。


ある場面で、以前のシーンとのつながりや相似があるように思って、遡ってページを繰って確かめてみると、それが意外に離れた、本の冒頭に近いところだったりして、あらあら最初よくわからずに読んでいたけれど、そういうことだったのね、それにしちゃあ、わからないなりによく記憶に引っかかっていたものだな、と驚くことが幾度かあった。


作家(クンデラ)自身が、登場人物に対する感慨を述べる文が突然さしはさまれていたり、作中の現実かと思わせる筆致で、登場人物の夢想が表現されたりして、どこか作品の書きかたには奔放な印象を感じる。


政治による抑圧的な空気の中でどんなことが起こるのか、その悲愴な側面を伝えることに主眼を置くのではなく、それを重大なファクターのひとつとしつつも、やや位相の違う、より普遍的な葛藤を描こうとしている。
おそらく、本書の中でもわかりやすく提示されているからであろうが、サビナを中心に据えて存在の軽さに対する不安とキッチュなものとの戦いについて描いている部分が印象に残った。


あやふやに読み進めている部分が少なからずあるので、もう一度きちんと読み通したら、もっと違う部分も「見えて」きて、また違った印象になるかもしれない。
どんな作品なのか、すぐに距離感がつかめる場合には、1回目の読書でかなり「味わったな」という気になれるのだけれど、そこで苦労すると、「反省」感が先立って、2回目が必要だという気分が残る。それでもなかなか「再読」に踏み切ることはできないことがほとんどで、新しいほうに手が伸びてしまうのだけれど。


他の作品も、読んでみようかな、という気になる読書体験であった。


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