坂崎幸之助のJ・POPスクール


坂崎幸之助のJ‐POPスクール (岩波アクティブ新書)
2003年に発刊された本であるが、当時店頭でパラパラと立ち読みして、すっかり読んだような気になっていた。
えっと、あの本はどこに置いたかな、と本棚を探して、はじめて立ち読みだったことを思いだし、あらためて買って読んだ。


私は、坂崎幸之助、という人が好きである。
好きなことに周りの人たちをさりげなくまきこんで、わいわいと楽しく、肩肘張らずにとことんまでやってしまう。


好きなのかどうかすぐ自問自答したり、すぐ肩肘張ってしまったり、あれやこれやといろいろなことが気になってとことんやれない私には、まぶしく映る。
昔だったら「反省」して無理な真似を試みて、「肩肘張って」しまったりしかねなかった。
でも今では、「タイプの違う」人の活躍は、自分の肩まで軽くしてもらうことのできる、応援の対象として楽しめるようになった。


坂崎・桜井・高見沢三氏のTHE ALFEEは、幼いころから親しみを持って見続けてきたバンドだ。ブレイクした当初、ちびっ子にも「メリーアン」は驚きだった。やたら壮大で、要所要所でピーンとハモるメロディーはとっても格好良かった。今聴いても、当時のサウンドに気持ちがぶわっと昂揚する。
その当時から彼らは、すでに長い下積みがあったことをテレビで面白おかしく語っていて、私の知らない時代を通過してきた人たちであることをどこかで意識していた。自分たちにとって「今」な人たちの中で、「昔」につながっている唯一の人たち、という感じ。


その後、30年近くが過ぎたが、その後もずっと変わらずに走り続けていて、私より若いたくさんの人たちにとっても、同じように「過去への糸口」になっているように思う。すごいことだ。
坂崎さんは自然に負っていた自分たちのその役割を、ここ10年近く意識的に担ってきた。この本はそのひとつの成果である。


今、当たり前にあるものがなかった世界をまず知り、そこから今の「当たり前」ができるまでの道行きを知る。振り返る目線から見ているため、少し滑稽だったりもするが、困難で熱かった時代の空気は感じ取ることができる。


聴衆の変化、成長がなくては音楽は実っていかないこと。「『売れる・売れない』とは異なった評価が確固としてあったが、それが(確固としすぎていて)枷でもあった時代」から、「独自な主張をしているように錯覚しているが、実はビジネスの中で踊っている時代」へと移り変わってきたこと。


一端についてはリアルに知っているが、しかし多くは曖昧な知識の断片でしかないもの、それらが坂崎さん自身の物語で、一続きの立体的な絵巻に仕立てられ、いろいろなことが見えてくるようになっている。


どれどれ、と確かめてみたい音楽やできごとがたくさん出てくる本である。


[fin]