Cafe Endeves

カフェ・アンディーヴ



私の勤める学校では、各クラスで「お出かけ」を企画する取り組みをしている。
年度に2回。
「余暇」をただひとり部屋にこもって過ごすばかりでなく、他の人と過ごしたり、外出したりすることで気分転換することもできるようになってほしい、ということや、級友で相談して計画する、という過程で意見を言ったり聞いたりそれらを調整したりする力をつけてほしい、ということを、させる側は期待している。
路線図が読めたり、定められた金額の中で食事や移動にかかる費用をコントロールできるようになることなど、生活スキル面が課題となる生徒もいる。


驚くほど経験が乏しく、「外出したいところ」のイメージや土地勘はとても貧しい。
フリーにしてしまうと、6クラスがそれぞれに違う方面に適度な距離の行程を計画する、という可能性は限りなく低いので、去年から「ダーツの旅」のアイデアを借用した。


学校を中心に半径20km強、近県一円の地図をコピーしてダンボール上に貼り合わせて作った、3畳くらいの的に、クラス代表が順にダーツを投げて「ゴール」を決める。的にはドーナツのように2重円が描いてあって、10km以内を示す小さい円の中に刺さったらアウト。他のクラスから30cm以上はなれていないところに刺さってもアウト。
刺さった「ゴール」で写真を撮ってくることが至上命題で、それ以外は自由。そこに行く交通経路を調べて、費用に余裕がなければ弁当を持って行き、余裕があれば外食を楽しむ。出かけるまでに、各クラスでプランを大きな紙にまとめて、発表し、帰ってきたら、写真をプロジェクターに映して報告会。


昨年2回やって、今年の今回で3回目。
毎回、学年全員が集まってダーツを投げるときは、地響きしそうなほどに生徒たちは盛り上がる。
はじめは北も南もあまりわからずに、盛り上がっていた彼らも、だんだん地図がわかってきて、一生懸命に市内の繁華なところを狙うようになってきた。
これだけでも、やった甲斐があったな、と企画者の私にはかなり満足感がある。


私のクラスは、「繁華な市内」にはほど遠い、昨年刺さったところと数センチしか変わらない、隣県の同じ町にまた突き当ててしまった。
「去年行ったところと一緒ちゃうん」と、モチベーションは下がり気味。でも、夏休みには数人が一緒に下見に出かけ、女生徒が「おしゃれなカフェに行きたいの」とインターネットで店を調べてきたりした。周りの男たちは、その希望の強さに圧倒されて、結果的にそこを目指すことになった。


地図では、相当な距離だったが、途中に2箇所ほど立ち寄る目標を作ると、それほど無茶な行程でもなくなった。


目指したのは「Cafe Endeve」というカフェ・レストラン。
目標として設定したホールや寺に立ち寄りながら市街を抜け、もう一本の線路を越えて歩いていくと、周辺は工場や、閉鎖した大型店舗が続く町並みになる。「おしゃれ」なカフェが出てくるとはちょっと思えない感じだったのだが、進んでいくと、ぽっと突然現れた。


山吹色を基調に、古い建物を趣味よく内装していて、なかなかすてきなお店である。
ランチメニューの値段は、前もって調べていた通り、800円から1000円くらいと、ちょっと豪勢にするならいいかな、と思えるくらいの額で、料理はそのくらいの期待には十分に応えてくれる内容だった。
私が頼んだ「日替わり」は、オーブンでグリルした鶏肉をホワイトソースで仕上げたメインに、たっぷりのサラダとスープ、ドリンクつき。


女の子の希望につきあわされた感じの男子生徒も、へー、と感心しきり。おしゃれな雰囲気ながらライスはお代わり自由で、男子にも強くアピールしたようである。みな満足顔で店を引き揚げた。


小雨のぱらつくあいにくの天気だったが、ひどく降られることもなく、公園でのんびりしたあと、撮影ポイントの「市役所」を背景に無事写真も撮って、楽しく一日ツアーを終えることができた。


[fin]