お礼の葉書


私は少し長く学生時代を送り、20代も半ばを過ぎて今の仕事についた。


思いもよらなかった配属先で、戸惑いながら働き始めた。数年にわたって新規採用のほとんどなかった時期で、職場では「新人」自体が珍しく、一挙一動が注目を浴びる大変さがあったけれど、大事にもされたことを思い出す。


年々人事異動がどんどん行われ、「職場名」は変わらずとも、職場というのは毎年異なる体制に変わっていくのだが、これまでの10年余りを振り返ってみて、実にいい年にいいところで仕事を始められたなあ、とめぐり合わせに感謝する気持ちがある。
その年1年しか一緒に働かなかった人から、いろいろなことを教えられたこと、その年、職場の人がその組み合わせであったがゆえに新人として学べたこと、そういうものがいくつも思い当たるのだ。
もちろん、そうでなかった時に出会っていた運命と比較することはできないから、こういう評価は主観的で、絶対的なものでしかないのだけれど、そんなふうに思えることは、たいへん幸せなことであると思う。


この夏、娘の誕生を知らせる暑中見舞いをたくさん出したこともあって、たくさんの郵便が我が家に届いた。
今週その中に、当時お世話になった方お二人からの、お祝いがあった。


そのお一人、Sさんは、本を愛し、軽やかに信念を保ち、目の前の仕事を誠実にこなしながら、世界や社会や自然への関心を行動に移してゆかれる。この仕事には、こんな風に生きていく人たちがいるのかと驚き、スタイルは違えど、年の取り方を学んでいきたいと憧れた大先輩であった。定年を迎えられた後、海外をご夫婦で旅されて、そのお土産と共に、すてきな絵本とシャツを送ってくださった。


もうひとりのDさんは、新任の1年目にしか一緒に働けなかったにも関わらず、新人が任される程度の目の前の仕事のことはもちろん、もっと大きな枠組みで仕事の組み立て方、動き方、考え方を叩き込んでくださった。今に至る私なりの仕事のスタイルは、かなりの部分が、そこで培われたものだと思う。
滅多にお会いすることはないが、遠くにいて励まされる先輩である。この度は、これから娘が一番着ることになりそうな子供服を送ってくださった。


今日、お礼の葉書を書きながら、その年のことをふと(少しだけ)懐かしく思い出した。


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