その名にちなんで


その名にちなんで (新潮クレスト・ブックス)
ジュンパ・ラヒリ著「その名にちなんで」を読み終えた。


新潮社クレストブックスのシリーズは、海外の新しい作品を積極的に紹介しようという意気込みに満ち、簡素ながら装丁も美しく、しょっちゅうというわけにはなかなか行かないが、「読書らしい読書」をしたくなったときに手にする。
このシリーズの刊行が始まった時、その収録作品の中から、ベルハルト・シュリンクの「朗読者」という作品が大変な話題になった。
それと並んで、インド出身の女流新進作家がデビュー短編集ながらピューリツァー賞を受賞した作品として、「停電の夜に」という作品がもうひとつの目玉となっていた。
この「停電の夜に」の作者がジュンパ・ラヒリである。


朗読者 (新潮クレスト・ブックス)
停電の夜に (新潮文庫)
当時、「朗読者」はすぐに購入して読んだのだが、「停電の夜に」まではなかなか手が伸びないでいた。すると、好評だったためか比較的すぐに新潮文庫に収録されてしまい、結局この文庫版で後日読んだ(ちなみに「朗読者」もすぐ文庫版が出た)。


「停電の夜に」は、インドで生まれアメリカの大学人となった男の家庭で起こるできごとが、他所ごととしてでなく、身近に感じられる筆致で静かに印象深く描かれていた、と記憶する。なかなか素敵な短編集で、せっかくの「読書らしい読書」を、文庫で済ませてしまったことをちょっと後悔するような気分になった。
そんなことがあったので、デビュー第2作となる「その名にちなんで」が同じく新潮社クレストブックスから出たと知った時に、そっと購入しておいたのだった。


期待にたがわない、いい本だった。
親世代・子世代の間で、その年代・環境にそれぞれが生きる中で、緩やかに受け継がれ伝えられるもの。
立場は変われど、人物それぞれに共感できるリアリティがある。


心穏やかに、ずっしりとした満足感を感じてページを閉じることができた。
クレストブックスに手を伸ばす幸せを、また味わいたいものである。


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