一時的な豪雨を歩く


今年の梅雨は蒸し暑いものの、梅雨入り前ほどに雨が降らず、いきなり夏本番のようである。
予報は、午後から雨があるというものだった。
日常的に忍ばせた折り畳み傘で大丈夫と踏む。


薄黄色に濁った雲が低く垂れ込めたものの、夕方5時を過ぎて雨はなし。
空模様も心にかけつつ、いつもより早めに仕事を終えた7時前、なんとか持ちこたえたか、と外を見ると雨粒が。
見る間に激しい本降りに。


心穏やかならずも、しばし様子を見ていたが、雨にぬれる不快さよりも、一刻も早く職場を離れたい思いが勝り、覚悟を決めて駅に向かう。


豪雨の激しさは想像を絶した。
小さな折り畳み傘はすぐ、PCや書籍など濡れては困る荷物を守ることだけに専念させざるをえなくなる。
雨の圧力に抗することに集中しなければ進むこともままならない。
あっという間に靴もズボンもシャツの背中もじゅくじゅくに濡れそぼった。
何とか商店街のアーケードにたどり着いて、息をつこうとしたら、アーケードの中も跳ね返りに煙っている。樋の近くは滝のように水が飛び散り、道と交差するところは、横からの吹き込みで、屋根の下にもかかわらず傘なしにはとても通れないような飛沫の幕が張っていた。
アーケードの下でも、右に左に開いた傘を立てながら、ジュクジュクと駆け抜ける。


駅に着くと、到着したものの駅舎から出られない人たちでホームの席は溢れかえっていた。
列車を待つ間に、水風船のように重くなった靴を脱ぎ、中の水を捨て、靴下を絞る。
雑巾を洗っている時のようにじゃばっと水が落ちる。
少し足先がすっきりして軽くなる。


激しい雨は、10分もしないうちに大人しくなった。
車内ではクーラーに震えて帰る。


待てば30分遅れで、さして濡れずに帰れたのであろうが、今は必然性を少しでも欠く30分は、この不快さにさえ劣る。
風呂で一息ついて、何事もなかったように夕飯を頬張った。


[fin]