古道具 中野商店


古道具 中野商店 (新潮文庫)
川上弘美「古道具 中野商店」を読み終えた。


中野商店に流れている時間は、学生時代に自転車で巡っていた古書や古物の店で感じた空気としっくりとそのまま繋がり、その当時巡る側にいた自分にも流れていた時間でもあり、なつかしく感じた。


ヒトミさんの生活感は自分の中に確かにあったもののようであるのに、いまでは変わってきてしまったかなあ、と思っていたら、中野商店解散後の最終章でヒトミさんやタケオは、苦もなく今の自分と近い時間の流れと生活感の中にいた。その2つが「ある契機にぽんと行ったり来たりするくらいの距離にある」ということを感じた。
また「どちらか一方」というようなものではなく、「あちらもあって、こちらもある」というような具合のようなのだ。
だから単にノスタルジックに懐かしいのではなく、親しみを持った「そこにある」懐かしさとして、すっと入って行っていけるのだろう。


中野さんも、タマヨさんも、ヒトミさんも、それぞれに恋愛する。
「恋愛」ということばの方からはなかなか連想できない味わいをそれぞれに持っているが、いずれも何ら奇をてらうことのない、まさにありふれて「恋愛」なのである。
その証拠に、中野さんも、タマヨさんも、ヒトミさんもジタバタするけどドタバタはしない。


人生には「タマヨ」さんが必要だ。そして「タマヨ」さんがいれば、「中野さん」たちは人生を彩る楽しい存在となり、また違う意味で不可欠となる。
自分の周りのいろいろな人を思い浮かべながら、ふわふわと面白く読んだ。


[fin]