コアトレ


アスリートのためのコアトレ―100のエクササイズ12の処方箋
有吉与志恵著の「コアトレ」を読んだ。
表層の大きな筋肉を鍛えるのではなく、体幹の深層筋を活性化させることで様々な動きに軸とスムーズさを獲得させることを目指している。


本書の中には甲野善紀氏に触れた部分もあるが、パワーに頼るのではない力強さや故障のない身体を、「医学的な身体構造の分析」や「発達の過程で動きを獲得してゆくプロセスの探求」によって説明する姿勢がわかりやすい。
深層筋の構造や名前をわかりやすく図解する前半部分と、ストレッチポールを用いた基本姿勢だけで十分に元は取れた感じがした。


相方の実家にはなぜか以前からストレッチポールが転がっており、前の職場では生徒の身体に働きかけるツールとして見慣れていたものの、自分の身体にはどう使うのが効果的なのかはいまひとつよくわかっていなかった。
「あれ?全く同じポールだ」と、この本に登場しているものを見て驚いた。脊柱を重力から解放する道具として大変な効果がある。


重力からの解放を意識して寝転ぶ、なんてしたことがなかったので、その意識だけでも大発見だった。ポールなしでも、蒲団の上で背筋が地平面に溶け込むように接し方と脱力の方向を工夫するだけで、眠りの深さや疲れの取れ方が大きく変わる。
相方の母が、使ってないからいいよ、と譲ってくださったので、ポールは今我が家にある。寝る前に使っているが、実に気持ちいい(15分以上はだめ、とあるのについ寝てしまうのが難点なくらい)。


100ものエクササイズは、取捨選択するのに「専門家」の指導の必要性を思わせるが、クライアントのケースとエクササイズプログラムの設計例が巻末にあって、どのように活用していったらいいか、ある程度の方向性はわかるようになっている。


3ヵ月半の娘を日々相手にしているせいもあって、「発達の過程で動きを獲得してゆくプロセス」に沿って分析して、ひずみや障りになっている運動について補正・再獲得する、という発想がピンと来る。中枢から末端への「指令」自体を教育する、という発想は、NPFというトレーニングにおける根本的な思想として知られるが、これと本質は同じである。ただ本来の発達過程の中にすでにある、という観点が示されているために、「生体本来の機能を取り戻す」という色合いを強く感じるのが特徴だろうか。「トレーニング」という語よりも「整体」という語で括られるカテゴリーの中で触れてきた要素が多い。


本流のスポーツ科学がようやく、<本流の西洋医学/傍流としての東洋医学・民間医療>という不毛な線引きを自然に飛び越え始めたのかな、といった印象を持った。


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