野村監督


成功体験より失敗体験に学ぶことの方がずっと多い、というのは真理であると思う。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」とはこれを見事に言い表した野村克也さんの名言である。


あぁ、阪神タイガース―負ける理由、勝つ理由 (角川oneテーマ21)
先日久々に立ち寄った書店で「あぁ、阪神タイガース」という題名が目に入り、著者を確かめると野村克也とある。これは買うしかない、とレジに向かう。
一気に読み終えた。明快で面白かった。


王貞治氏の現役引退を機に巨人ファンから阪神ファンに転向して以来、あきれながらもそれなりに長くファンをしてきたので、起こったドタバタや会社の体質などは一通り知っていた。この本で教えられたのは、様々のエピソードではなく、まっすぐに「野球の理想を追求する」、「強いチームを作る」という視点から「阪神タイガース」を見てこなかった「自分」だった。そういうまぶしい視点にはとてもとても立てなくて、迂回して「良さ」や「面白さ」を見出すことで愛着を保つ、ということがあたりまえに身に備わっていることに気づく。


良くも悪くも、そういうのが関西の気質なのかもしれない、と思う。勝負事となると、どこか甘さが伴う感じ。現状を基準に、最善手を考えるより先に次善策から考え始めるような癖。
長く楽しくひとつのチームを応援するという、それだけのことならそれでもいいのだが、勝負についてきちんとまっすぐに理想を追求する姿勢や感覚も、切実に必要な場面がある。
「生きのびる」戦略は前者でいいが、それとは別に「勝負する」姿勢や思想も持っておかねばならない。ささやかながら、代表チームを率いて戦うことを今実際に要請されているわけで、反省させられることが多かった。


自身の失敗と星野氏の成功を冷静に語るくだりで、野村氏は、周囲の環境を変えるにはどういった手を打つ必要があるのかを具体的に星野氏の手腕によって見せつけられて素直に脱帽し、「自分にないもの」を痛感する。ないなりに自分が変化できることは何か、を考えて次の仕事(シダックス楽天イーグルス)に臨む姿に、かくありたいとわが身を省みる。


巨人軍論 ――組織とは、人間とは、伝統とは (角川oneテーマ21)
本書の「野球観」の背景となっている、すこし先に書かれた「巨人軍論」も買いに行って読んだ。
野村氏の身を切るような反省がにじんでいて、本としては「あぁ阪神タイガース」の方が面白かったが、「何を目指すのか」を明らかにする点でこの本はわかりやすく、興味深く一気に読み終えた。


野村監督就任3年目となる今シーズンの楽天はこれまでのところ常に5割を上回って上位にも肉薄する。かつてのお荷物弱小球団の面影は一掃されて、山崎・岩隈・田中を中心に「機能する」チームに変貌した。試合後の野村さんのコメントは楽しみの一つである。
セでは(今のところ)阪神タイガースが首位を快走している。野村楽天ジャイアンツやタイガースと日本シリーズで対決するようなことがあったら、とかすかに期待してペナントレースを眺めている。


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