「脳と仮想」


茂木健一郎の「脳と仮想」を読み終える。3冊並行で読んでいたこともあるが、大して厚くない本なのにずいぶんと長くかかってしまった。
脳と仮想 (新潮文庫)

研究と著述だけでも相当にエネルギーがいると思うのだが、さらにあれだけたくさんテレビにも出演し、著者の茂木さんはものすごい忙しさであろうと思う。
「プロフェッショナル−仕事の流儀」の印象が強くて、はじめのうちは読んでいるとつい、スガシカオのProgressが頭の中を流れて苦笑する。
Progress


小林秀雄の講演から印象的に説き起こして、人間の「現実」認識のあり方について、印象的なエピソードと共に、独立性の高い章を重ねながら論が展開される。
小林秀雄講演 第2巻―信ずることと考えること [新潮CD] (新潮CD 講演 小林秀雄講演 第 2巻)
平明な表現なのだが、私が内容を自然に捉える長さよりも、ほんの少し文章の息が長い感じで、気を抜いて読んでいると文意が頭の表面を上滑ってしまう。いかんいかん、と「滑る」前のところまで戻ってまた読み直す…。長くかかってしまったのは、主にそれが原因だ。
どうしてだろう。


なるほどなあ、と「見方」の新しい切り口をいくつか提示してもらえた感じがする。
最も印象的だったのは、三木成夫の講演をめぐる著者のエピソードとともに語られる「大量の思い出せない記憶」の役割の大きさ、についての部分であった。
エピソード記憶として引き出せなくとも、積み重ねた経験は意味を持つ、と考えることは、意識の支配下に自分を置けていないような不安感を感じるむきもあるだろうが、一刻一刻がすべて有効となっているとも言え、その積み上げ方に工夫さえすればよい、と言われたようでもあり、前向きな勇気をあたえられた感じがする。


[fin]