スプライトの芽

スプライトと魚



水槽はこのところずっと安定している。


ネオンテトラグローライトテトラブラックネオンテトラ、そしてすっかり長老になったシルバーチップテトラオトシンクルス、清掃部隊のヤマトヌマエビイシマキガイ。いずれも、元気に泳ぎ回っている。
水草も、ずっと健在のアヌビアスナナに加え、ウォータースプライトの大株が定着し、景色が落ち着いた。それ以外は若干の盛衰があるが、今はバコバ、アマゾン、ハイグロフィラが周辺をにぎわせている。


しかし、この安定も微妙なバランスの上に成り立っているらしい。
アマゾンやナナの色があまりよくないから、と少し肥料を与えると、まったく見られなくなっていた「緑色の、腐臭を発する藻」が、数日後ちらりと顔を出した。あわてて、2日間の「暗黒作戦」で藻をリセットする。
(「暗黒作戦」とは、新聞紙で覆って、完全に暗黒の状態で数日おくことだ。3日もやればたいていの藻はこれできれいに消滅する。)


夏にはヒーターなしで30度近くあった水温が、夜間の冷えで一気に下がったりしないようにと、水温設定をを少し高めにしておいたのだが、さすがにもう、設定温度以上に自然上昇することはなくなったので、設定温度自体を徐々に26-7度に下げている。すると、その変化に反応したのか、スプライトが一斉に小さな芽をつけた。


スプライトは、ロゼット型の水草で、一枚一枚の葉は切れ目の入った蓬のような形をしている。実際に栽培するようになって初めてわかったのだが、この切れ目の底に小さな芽が出ることで、新しい株ができ、増えてゆくしくみになっている。古くなった葉が、枯れ色に変わりながらたくさんの芽をつけて、葉としての一生を終えるのだ。次代を生み出してから寿命を終えるその姿には、少しこうぐっとくるものがある。
この「芽」をつけるタイミングが、環境に応じて少しずつ変化する。それほど古くない葉まで、芽をつける時期もあれば、本当に枯れかけの古い葉だけが芽をつけている時期もある。


温度の低下に「冬」を感じて一生懸命、次代を生み出そうとしているのだろうか。


平和な「安定」した世界に見えるこの小さな水槽の中でも、小さなせめぎあいやかすかな変化が絶え間なく続いている。


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