開拓


午前中、いっぱいいっぱい授業をしてから、あわただしく昼食を摂って、会う約束をしていた福祉法人の所へ地図を片手に自転車で出かけた。


いわゆる「学校教育」というものと違う取り組みを進める準備なのだが、あらかじめ完成形があってそこに向けて積み上げる、というわけにはいかない。漠然と欠けているものがわかっていて、そこに当てはめるべきと思われるピースがなんとなくだけわかっていて、それに相当しそうな所へ出かけていって、話の流れの中でその「欠落」と「ピース」の輪郭を少しずつはっきりさせていく…、というのが正直なところだ。


こちらから会うお願いをしておきながら、頭の中は実はこういう状態だから、ひらめきを頼りに、どんな展開にも対応して順次話の流れを作り上げることが大切だ。出かけるときはちょっと気合いがいるが、始まってしまえば神経をとぎすませて会話に集中するだけだ。


就労をめざすために実地の経験を積ませたいが、「実地」は日々厳しい景気のなかで真剣に経営を行っている。なかなかそこで実習をさせてもらったり、仕事を引き受けさせてもらうことは難しい。引き受けさせてもらえる仕事があった場合も、教育機関は「報酬を受け取れない」というもう一つの壁がある。
「一定期間職業を経験させる実習先の確保」・「実習を通じて生徒を理解してもらって採用に結びつける」といういわゆる「進路指導」の取り組みも非常に大変なのであるが、これらとまた違って「継続的にスキルを身につけさせる実習を年単位で組み立てる」にあたっては、意外にこの2つ目の壁が立ちはだかってくることを感じている。


これまで比較的重度の障害をもつ生徒を担当したときに「進路先」として接していた授産施設・更生施設へ「提携先」のひとつとして訪れることになったのは、少し妙な感じだった。でも、結果的には今回、とても温厚で熱意にあふれ、回転の速い若い主任さんとのじっくりとした話し合いは大収穫となった。


「報酬」を介さないために「継続的に」あるいは「深く」現場と関わり続けにくい、という2つ目の壁を、企業と教育機関の間にこういった機関との連携を介せば越えられるのではないか、というシナリオがすこしはっきりした気がする。


飛び込んでみて話をする、というのはもともととっても苦手なことなので、うまくいくと、本当にほっとする。もっとも、ほっとした瞬間にぐったりと疲れが出てしまうけれど…。


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