周公旦


酒見賢一の「周公旦」を読んだ。


周公旦 (文春文庫)
細々と論語の通読をしているのだけれど、孔子が理想とする「周」や「周公その人」、またその当時の状況や、「礼」そのものについて、あまりにも知らないために、せっかく読んでいても、引っかかれていないと感じられて、過ぎゆく文章を惜しむような心地がしていた。週末、実家にうっかり「論語」を置いてきてしまったのをいいことにこの本に手を伸ばしたら、おもしろくて一気に読めてしまった。
参考になりそうだからと買ってあったものだが、それ以上だった。原典から歴史の息吹が立ち上がってくる、というのが専門家や古典読みにとっての古典の醍醐味なのであろうけれど、そこが心許ない者にとっては、手っ取り早くその時代の状況・登場人物・雰囲気を知るのに小説は最高である。勉強を通じて知識を頭の中に一揃い整えるステップをすっ飛ばして、いきなりその時代の「半可通」くらいまで、引っ張り上げてくれる力がある。


文王・武王の後を、どう継いだのが周公であったのか、「圧倒的」というのではなかったが、しかし殷の後の支那全体を統べた周のありかたと「礼」の力、といったことがわかった気になっただけで、まずは十分に役割を果たしている。他にも、この時代の人物や状況について私に欠落している基本的な知識を随分補ってもらった(例えば、太公望という人物、「楚」という地の認識。これまでに「知っていた」だけの稲の起源地・雲南長江文明が、ようやく位置付いた気がする)。
さらには、周公という人物に、孔子が抱いたのと(少なくとも多少は)同じように、憧れや畏敬の念を感じさせてもらえた。「論語」に戻ったとき、孔子の語りの「熱さ」に、親しみや共感がわくようになるのは間違いない。ちょっと楽しみになった。


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