写真撮影と甲子園

雨の甲子園



雨の合間の曇り空。試合ができるのかどうか微妙だと思いながら、義兄にプレゼントしてもらった楽天との交流戦のチケットを握りしめて甲子園に父とやって来た。尼崎あたりから、明らかにそれとわかる人たちで車内は溢れていて、自然と気分が高まる。
前に来たのは1992年。もう20年近く経ったか、という感慨が強い。Rくんと2試合観に行った。たしかいずれもその年に優勝した野村ヤクルトが相手で、一度は野田の見事な完封劇、もう一度は木戸の満塁ホームランショーと、中村阪神が鮮やかな勝利を私たちに見せてくれた。
通路から一歩踏み出したときに、目の前に広がるグラウンドの広さと、証明に美しく浮かび上がって見える青い芝は、相変わらず感動的な美しさだった。しかしそこへ辿りつく前に、喫煙室が完備されていたり、通路や売店、座席、トイレなどが見違えるように明るく、美しく改修・整備されていることに驚いた。


先日の「取材」で、来週金曜日の掲載日までに撃っているところを撮影したい、と依頼され、この甲子園と明日の日帰り東京講演、と十分いっぱいいっぱいだったところへ、無理やりに今朝「能勢まで往復して撮影」を押し込んだ。土曜日の朝イチだと射場はひっそりした感じかと思ったら、近畿高校選手権の公式練習日に当たっていて、選手や顧問の先生のほかに近畿各府県の理事長クラスがうろうろとしておられて、なかなかに賑やかだった。重鎮の方々が、カメラマンに競技のことや、撮影に当たっての射場の遵守事項について話しながら、すすんで射場役員を務めてくださったので、とてもスムーズに運んで助かった。あれこれ注文に応えながら、写真を撮ってもらう、なんてのは結婚式以来だろうか。そう滅多にないことだろうけれど、今回も恥ずかしいのにうまく乗せられてしまって気がつくとおしまい、という具合だった。


さて、父と客席に出る手前の通路で新井選手の穴子弁当というのを2つ買い込んで、ライト側アルプス席の比較的上段に陣取った。開始前の練習や整備作業を見ながら、早速ビール片手に腹ごしらえ。さすがにいい値段がするなと思った弁当は、豪快に大きな穴子が乗っかっていて、これはそう高い買い物ではなかったな、と思いなおした。
ホームのタイガースは後攻であるから、試合は「え、始まった?」というくらいに静かに始まる。先発は能見。岩田か能見の時がいいな、と期待していたのでちょっとうれしくなる。しかし、あっさりヒットを打たれたかと思うと、いきなり松井稼頭央にホームランを浴びて立ち上がり2失点。その後も淡々と、しかし楽天が押し気味に試合を進めた。
今年のイーグルスは、嶋選手をはじめ被災地のチームとして、この未曽有の苦難にあってスポーツはどうあるべきかを身をもって示そうとする特別な存在である。もとより近鉄を応援してきた者にとって(共通するのかどうかは分からないが)楽天というチームには特別な思い入れがあってひそかに応援しており、岡田監督になった後のオリックスにしてもやはり同様に気に掛かっている。この2チームに限らず、ファイターズにしてもホークスにしてもマリーンズにしても、パ・リーグの球団にはそれぞれに「あっぱれ」と思わせるしっかりとしたカラーがあって、リーグ全体がすっかりセ・リーグを置き去りにして面白くなっている。どことなく工夫のない感じのタイガースが押されていても、そうだろうなあと嘆くのを楽しんでいるようなところがある。基本的に下位に低迷し続けた球団に付き合ってきて、応援というより出来の悪い近所の子供を遠くで温かく見守っているような付き合いだから、外野席の熱烈な応援を背景に、勝っても負けても、はしゃいでもボヤいても、タイガース戦はいいのだ。


3回裏、マートン三塁打が出て、やっと反撃らしい形になったところで、大粒の雨が落ちてきて中断となった。私たちもそそくさと通路に避難する。どうなるかなあ、と気を揉みながら、ごった返す通路の脇に立っていろんなファンの様態を楽しんでいたら、激しい雨は一旦嘘のように収まり、グランド整備を経てゲームは再開した。
マートンを帰して1点は取ったものの、その後リードを許したままで5回までゲームが進んだ。6回が始まろうかというところで再び激しい雨になって降雨コールド。あっさりとタイガースは敗れた。
予報や空模様からして、再開後もまたいつ降りだしてもおかしくはなく、次に降りだしたら中止だというのは大して難しくない予測だった。星野楽天はその辺りを見越して、虎の子の先制点を、イニング数では序盤とも言える段階からじゃんじゃん継投して守っていったが、真弓阪神はそういうことを全く考えていない様子で、リードされているにも関わらず2アウトでランナーが二人いる場面にそのまま能見を打席に立たせて、みすみすチャンスを見送るなど、相変わらず魅力のない野球をしていたのが印象的だった。


球場をすぐに出たけれど、甲子園駅のホームに着いたときにはもう午後10時前になっていた。雨に濡れて少しばかり参ったけれど、元気なちびっ子の応援の様子や、カクテル光線を浴びた緑を背景にユニフォームが走りまわる美しさを楽しみ、久しぶりの甲子園に満足して帰途についた。


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