ホワイト・バレンタイン


東大阪の職場では、午前10時ごろから雪混じりの雨が降り始めた。
夕方には、グラウンドはすっかり水浸しになってしまったが、8割方が雨で、雪としては大したことがなく、積もったりするようには到底思えない感じだったのだけれど、保護者からは、雪を心配して下校時刻などを問い合わせる電話がかかったりしていた。
その時は「ずいぶん心配性なことだ」、と内心で思いながら応対していたのだが、夕刻にたくさんの着信履歴に気付いて家に電話すると、自宅付近が雪で大変なことになっている、という。その保護者の心配がそうそう的外れなものでもなかったとわかった。


娘と相方がいる、丘の上の実家までとなると、足がどうなるかわからない具合だったので、あわてて職場を出た。
列車の車窓を眺めていると山が近づくにつれ雪の色が濃くなり、最後県境のトンネルを抜けると、世界が白く変わった。


駅まで父が、迎えに来てくれた。運転を代わる。
駅の周辺では、歩道がシャーベット状の雪に厚く覆われ、車道にも車の走る幅以外は雪の塊が帯状に積もっていた。
駅から10分足らずなのだが、市街を離れて丘を登るとさらに景色は一変した。あらゆるものが白い帽子をかぶり、道路も真っ白。
丁寧に加速と減速を繰り返して家に滑り込んだ。
娘は、ずいぶんと雪で遊んだようで、興奮気味に園でのできごとを話してくれた。


ここのところいつもそうしているように、夕食を終えて眠る二人の子を乗せて、暗くて白くて静かな夜の道を、さらに自宅へ向かって移動した。
見慣れたはずの景色を一変させる雪の洗礼に、連休を遠くで過ごしたために今ひとつ戻らない現実感が、さらに麻痺したようになっている。


[fin]