日本の近代小説


日本の近代小説 (岩波新書)
中村光夫氏の「日本の近代小説」を読み終えた。
ずいぶん古い本で、青版の岩波新書を手にするのは久しぶりである。


柄谷行人氏の「日本近代文学の起源」は大変面白かったが、いわゆる「その時代の文学」について分析を加えるものであった。そこで俎上に挙げられていた「一般的な」近代文学についての認識、というものは、一般的な知識と知っていたものの外は、分析における「見えない方の合わせ絵」として理解してきた。一様に鳥瞰することのできる、「一般的」な形式の近代文学論というのもひとつ読んでおくかな、と手に取ったのが本書である。


はじめ少し退屈に感じたが、「文学=私小説」となってしまった過程が「文学」の普遍的な発展の姿ではなく、日本の特殊事情である、ということを明らかにしようという意志を背景に、基本的に時系列に流派や文壇の事情を漏れなくカバーしながら進む展開に、途中からは面白く読んだ。


「篁村・緑雨・一葉」、「花袋・藤村・泡鳴・秋声」の章辺りから、面白くなりだしたのだが、漱石や鷗外についても、当時の日本の状況と合わせて、そういうことだったのか、と初めて知ることがあり、有島武郎志賀直哉についても、関川氏の「白樺たちの大正」で読んだことに加えて、新たな興味が湧いた。


この本では、努めて全体像の把握を優先して、抑えた筆致であるが、(主に「私小説批判」であるらしい)中村氏の「言いたいこと」は(発表当時相当に波紋を惹き起こしたという)「風俗小説論」という書で展開されているようだ。そちらも(すぐに読むかどうかはわからないのに)つい手に入れてしまったので、いずれは紐解いてみようと思う。


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