お見舞い

お見舞いの帰り



両親は、月曜日に北欧に旅行に出かけていった。
留守宅には魚のほか、大して気がかりなものはなく、適度に雨もあって植木の心配も要らない。
空気の入れ替えと餌やりに一度出かけたら十分かな、ということだったが、今日、妹一家が家族連れで様子を見に来てくれると言う。


私たちの方は、何の役に立てるでもないが、旅行中叔母に任せきりになってしまう祖父の病院へ、3人で見舞いに行くことにした。
お昼を食べてから出掛けようということになったのだが、娘の「お外で食べたい」というリクエストもあり、近所の「さと」に行くと、実家帰りの妹一家と一緒になった。
こんな偶然もあるものかと驚いた。


祖父は、自宅近くの市立病院に検査入院して、ひと月あまりが経っている。
叔母さんに朝連絡すると、医師から説明を受けるために、叔父と一緒に昼ごろから病院にいる、という。


病院に着いてフロアを上ると、叔父が休憩室にいるのがすぐ見えた。
医師の説明を手短に説明してもらった。検査の結果には大きく憂えなければならないようなものはなかったようだ。あとひとつ小さな手術をしたら、この入院も一区切りを迎えることになりそうである。


ある程度予想していたが、実際に会ってみると祖父はやつれていて、退院後再び一人で生活することはとても無理だと感じた。
危なっかしく続けていた俳句の仕事を、これを機に整理して、すっかり肩の荷を降ろしてしまったのだろうか。
数年前の白内障の手術のときは、看護師さんに注意されても原稿を読んだり、何かメモを書いたりしていたものだったが、今回の入院中、まったく筆記具を手に取る様子もないという。
叔父の言葉に軽口をたたく軽やかさは健在で、少しだけ安心する。


幾度目かのトイレの後、病室へ寝に行ってしまったのを機に、私たち3人は叔父叔母を残して病院を後にする。
病院のすぐ隣の大きな公園で、少しだけ遊んでから帰った。


今日は、19時からマンション自治会の定例総会がある。
ワールドカップの日本対オランダ戦が、これほどに注目の一戦になることは、予想の外だったろう。しかし、試合と重なるこの日程の設定はあまりよろしくない。委任状を必要以上に増やしただろうことが想像できる。
フロアごとの役員に当たっているので、相方が仕方なく少し顔を出すことにする。


すっかり反抗期の娘は、このごろは野菜を食べさせるのにも一苦労する。
相方が出かけたあと「ママはー?」と泣き叫ぶ娘を寝付かせるのには、少しだけ苦心したが、一か八か「あのね、」と大人にするのと同じようにゆっくり説明すると、落ち着いて、やがてすっと寝てくれた。


総会は、サッカーなんかには一切興味のないらしい、ひと癖ある住人が繰り広げる牽強付会の理屈に、都市公団の担当者が四苦八苦して対応する、というなかなかの修羅場だったらしい。
「どのマンションでも、こういうことってそうそううまく行くとは思えないけれど、いったいどうしているのかしら」
1回目の休憩で、耐えかねて委任状を出して戻ってきた相方とその内容に嘆息しながら、サッカーの試合を観た。


[fin]