ISSF NEWS 2:2010
今回は、今月10日に届いた。
前号が年頭の1号ということで、盛りだくさんであったのに比べると、ISSFとしても、シーズンが開幕したということのほかには、特別なことがあったわけでなく、世界選手権に向けて淡々と歩みをはじめたことを伝える定番の内容の号となっている。
ISSF NEWS 2:2010COVER PAGE
ISSF会長オレガリオ・ヴァスケス・ラナ(Olegario Vazquez Rana)が、2010年の射撃シーズン開幕を告げる、メキシコ・アカプルコのワールドカップ・クレー大会の開会を宣言した。
事務局長ホースト・G・シュライバー(Horst G. Schreiber)とともに、その煌びやかな開会式典に臨んだ。今年はとにかく、ロンドンオリンピックの出場権(QP)を初めて競うことになる、7月末から8月にかけての第50回世界選手権を中心にISSFは動いてゆく。ISSFの総本山、ミュンヘンにて、出場者2000名を超える史上最大規模で開催される世界選手権への意気込みが、開会挨拶で語られ、熱いシーズンの開幕を強く印象付けている。
ISSF ACTIVITIES
ISSF WORLD CUP SERIES 2010 KICKS-OFF IN ACAPULCO AND SYDNEY
今年のシーズンが、メキシコ・アカプルコのワールドカップ・クレー大会で開幕した。
ワールドカップシリーズでは、ロンドン五輪のQPが出ない、という関係で、出場者数は少な目となっているが、手際の良い運営と温かい歓迎により、素晴らしい大会になった、と述べられている。
ライフル・ピストル競技は、シドニー大会で開幕。こちらも、参加者数については、アカプルコと同じような影響が見られる。
この大会は、もともとインド・ニューデリーで開催されている予定だったものが、急にキャンセルとなり、オーストラリアの協会が急遽快く開催を引き受けてくれたことで無事行われた経緯があり、この記事においても、ISSFとして最大限の感謝の念をオーストラリア協会に対して表している。
NEXT STOP: BEIJING-DORSET-FT BENNING-LONATO-BELGRADE
4月16-25日に中国・北京(Beijing)でオリンピック種目すべてが行われるワールドカップが行われる。
5月11-20日にはイギリスで初めてのクレーのワールドカップがドーセット(Dorset)で、5月11-20日にはアメリカ・フォートベニング(Ft Benning)でライフル・ピストルのワールドカップが行われる。
6月7-16日には、イタリア・ロナト(Lonato)でクレー、6月24日-7月4日にはセルビア・ベオグラードでライフル・ピストルのワールドカップが行われる。
2010 MUNICH-ISSF WORLD CHAMPIONSHIP
今年のハイライトは何と言っても7月末から8月11日にかけて行われる第50回の世界選手権大会である。参加者数は史上最大規模となる見通しである。
2010 WORLD CUP FINAL
今年のクレー射撃競技は、9月16-23日にトルコ・イスタンブールで行われるワールドカップ・ファイナルで締めくくられる。
ライフル・ピストル競技については、現時点で我々はまだ、ワールドカップファイナルを行いたいというオファーをどの射撃協会からも受けていない。
IMPORTANT NOTE
7月に開催予定の総会に向けて、各国協会の連絡先等に変更がないか確認することを求めるとともに、出欠・宿舎の申し込みなどを急ぐよう、呼びかけている。
また役員の立候補などについても呼びかけをしている。4月26-30日には、UAEのドバイ(Dubai)で国際スポーツ協約会議(International Meeting Sportaccord)が開催され、ISSF代表として会長と事務局長が出席する。次回のISSF NEWSではこの会議について伝える予定、とのことである。
COMPETITION
ISSF World Cup in Acapulco
3月1日-10日に行われた、アカプルコでのワールドカップ・クレー射撃競技についてのレポート。
気温38度にもなり、天候には恵まれたようである。国によっては、まだ分厚い積雪があるところから、一気にこの暑熱の会場にやってきて、驚きの伴った感激にひたる選手も少なくなかったようである。
獲得メダル数から言うと、アメリカ勢が他を圧倒する結果となっている。
ISSF World Cup in Sydney
ライフル・ピストル競技の開幕戦の模様。以下は「訳」というよりは、事実だけ拾って書いた私の感想文である。
- 10m男子エアライフル:中国の21歳カオ・イーフェイ(CAO Yifei)が、シディ・ペーター(SIDI Peter :HUN)と同点で決勝に進出したが、着実に高い点を重ねて堂々と初優勝を果たした(596+102.8)。一方のペーターは不調で100.7に留まり、5位に落ちた。2位はインドのラプー・サンジー(RAJPUT Sanjeev)、3位はオーストリアのマリオ・ノグラー(KNOEGLER Mario)。
- 10m女子エアピストル:韓国の22歳、パク・ミンジン(PARK Minjin)がワールドカップ初出場でいきなり優勝した。ファイナルにはトップと2点差の4位でスタートしたものの、102.2を撃って堂々の逆転勝利。新星の誕生である。2位に地元オーストラリアのアスパンディヤロヴァ・ダイナ(ASPANDIYAROVA Dina)、3位に中国のグオ・ウェンジュン(GUO Wenjun)。
- 10m女子エアライフル:北京五輪の金メダリスト、カテリーナ・エモンズ(EMMONS Katerina:CZE)の圧勝。399+104.1のポール・トゥ・ウィンである。マット・エモンズ選手との間に生まれた娘ジュリアちゃんが母の胸でメダルを握り締めて、二人にこやかに納まった写真が印象的だ。2位にはマレーシアのモードタイビ・ヌルスヤーニ(MOHD.TAIBI Nur Suryani)が入った。マレーシアにとっては歴史的なメダルである。この種目マレーシア女子のメダル獲得は初。モードタイビは50m三姿勢でも6位に入賞している。3位には北京五輪のファイナリスト、ジェイミー・ベイエール(BEYERLE Jamie:USA)が入っている。
- 50m男子ピストル:現在無敵を誇る、韓国のジン・ジョンオが軽々と1点差を跳ねのけて優勝するかに見えたが、最終弾で8.1を撃って同点2位に転落。中国のリン・ゾンザイ(LIN Zhongzai)が優勝した。アメリカのダリル・ザレンスキー(SZARENSKI Daryl)とジン・ジョンオのシュートオフにもつれ込んだ銀メダル争いは、11発目がともに10.0となって12発目までもつれ込み、結局ジン・ジョンオが2位になった。
- 50m男子伏射:この種目で頭ひとつ抜け出ているオーストラリアのワレン・ポテント(POTENT Warren)が600+103.7の世界新記録で堂々の優勝を果たした。僅差にひしめいていて誰が勝ってもおかしくない、というのが常のこの種目で、頭ひとつ抜け出る、というのがそもそもすごいことなのだが、一身に期待を背負うことが決して有利とはならないこのスポーツにおいて、地元のワールドカップで世界記録、とは恐れ入る。この凄さは、ちょっと想像を絶するものである。2位にインドのカルマカール・ジョイディープ(KARMAKAR Joydeep)、3位には最終弾で食い込んできたベラルーシのセルゲイ・マルティノフ(MARTYNOV Sergei)。
- 50m女子三姿勢:エアライフルで0.4点差でメダルを逃したウ・リュシ(WU Liuxi)が優勝。2位にはエアライフルで3位だったジェイミー・ベイエール(BEYERLE Jamie:USA)、3位にはクロアチアのペジック・スネザナ(PEJCIC Snjezana)が入った。日本の岩田聖子選手が初めてファイナルに残り、8位に入ったことも記事の最後に触れられている。惜しくも9位に古野本選手が入っている。
- 10m男子エアピストル:またしても韓国のジン・ジョンオ(JIN Jong Oh)の独壇場といったところ。50mでこそ2位になったが、本戦の1点差は、今の彼には問題にならない。逆転されたものの2位で初めてのメダルを獲得したのは、インドのシン・オムカー(SINGH Omkar)。3位にはロシアのセルゲイ・チェルビャコフスキー(CHERVYAKOVSKIY Sergey)が入った。
- 50m男子三姿勢:昨シーズン末のワールドカップファイナルに引き続き、マシュー・エモンズ(Matthew EMMONS:USA)が逆転で優勝した。カトリーヌとともに夫婦で金メダルである。立射で381と苦戦したものの、ランキング1位らしく、落ち着いて他をまとめての、堂々の勝利。2位にはエアライフルでも3位に入ったオーストリアのマリオ・ノグラー(KNOEGLER Mario)、3位には2009シューター・オブ・ザ・イヤー、シディ・ペーター(SIDI Peter :HUN)が入った。
- 25m男子ラピッドファイアは中国がメダルを独占。25m女子ピストルは、セルビアのジャスナ・セカリック(SEKARIC Jasna)が優勝した。
ROAD TO MUNICH
世界選手権の有望選手の話題と優勝予想を、獲得メダルランキング、前回優勝者などのデータとともに紹介している。
前号では、紹介を略したが、クレー競技について同様の記事があった。
今回は、ライフル・ピストル・ランニングターゲット、と記事があるが、ライフルだけ紹介する。
男子エアライフルでは何と言っても、北京五輪で金メダルを鮮やかに掻っ攫って以来、国際大会から姿を消している、インドのアビナフ・ビンドラ(Abhinav BINDRA)が姿を見せるのかどうかに注目が集まっている。姿を現した場合、中国の新星カオ・イーフェイ(CAO Yi Fei)や、ランキングトップのズ・キーナン(Zhu Qinan:CHN)、世界記録保持者である同じインドのガガン・ナラン(Gagan NARANG)らとの対決は、楽しみである。シディ・ペーター(SIDI Peter)も必ずこれに絡んでくるだろう。
男子三姿勢では、エモンズ(Matthew EMMONS)・デベベック(Rajmond DEBEVEC)・ペーター(SIDI Peter)が軸になると思われる。伏射は現在最強のワレン・ポテントに、前回覇者のセルゲイ・マルティノフらがどこまで迫るか。
女子エアライフルは北京五輪でも繰り広げられた2強、前回覇者でもある中国のズ・リー(DU Li)と北京金メダリストカテリーナ・エモンズ(Katerina EMMONS:CZE)の一騎打ちの争いが見られるかも知れない。しかしここには地元ドイツのソーニャ・フェイルシフター(Sonja PFEILSCHIFTER)が必ず割って入ってくるだろう。ソーニャは三姿勢と合わせて、ベセラ・レチェバ(Vessela LATCHEVA :BUL)の持つ、世界選手権通算獲得メダル数1位の記録を今大会で上回る可能性を持っている。前回覇者のリボフ・ガルキナ(Lioubov GALKINA :RUS)は調子を落としており、上位争いに加わるのは厳しそうだ。逆にアメリカのジェイミー・ベイエール(Jamie BEYERLE)は、勢いがあり、この3者に割って入る可能性は十分にある。
DOPING
今回の内容は、WADA (World Anti-Doping Agency)の禁止薬物リスト(Prohibited List)に焦点を当て、何が禁止されているのか、その概要を説明するものである。
WHAT IS THE PROHIBITED LIST?
禁止薬物リスト(Prohibited List)とは、1963年に初めてIOCのもとで作成され、その後2004年に世界アンチドーピング規約に引き継がれた。現在はWADAがこのリストの作成権限を持っている。
規約の土台であるこのリストでは、競技中・競技外一般に用いてはいけない薬物や強化手段のほか、特定のスポーツにおいてのみ禁止される薬物や手段についても定められている。
物質と手段については、カテゴリーに分類して記述されている。また、TUE(Therapeutic Use Exemption)によって、禁止されている薬物を治療上使用できるようにする手続きについても記述がある。
WHO DECIDES WHAT SUBSTANCES ARE ON THE LIST?
WADAによって、毎年1月1日に新しいリストが発効する。規約の中に、その手続きやスケジュールについても定められている。専門グループによるドラフト作成会議・健康・医学・研究委員会による検討会議・WADAの役員会議がそれぞれ6月、9月に行われて、10月には新しいリスト案を公示、翌年1月1日に発効、というスケジュールが繰り返されている。
WHAT SUBSTANCES ARE ON THE LIST?
禁止薬物は、その効能あるいは適用方法に基づいて分類されている。また、競技内使用の禁止・競技外使用の禁止、特定スポーツでの禁止、というように、禁止を求める場面の違いでも分類がある。
以下、その項目を訳出する。
SUBSTANCES PROHIBITED AT ALL TIMES (IN-AND OUT-OF COMPETITION)
いついかなるときでも使用してはいけない薬物。
S1:タンパク同化薬(Anabolic Agents)
- 主にタンパク同化ステロイド剤のこと。
S2:ペプチドホルモンや成長因子、およびその関連物質(Peptide Hormones, Growth Factors and Related Substances)
- 2010年からCERAというPRPの浄化剤といくつかの成長ホルモンが禁止物質に追加されている。
S3:ベータ-2作用薬(Beta-2 Antagonists)
- ぜんそくの症状に処方される吸入剤。2010年からサルブタモール(Salbutamol)・サルメテロール(Salmeterol)について、吸入に用いる場合に限って禁止から除外された。
S4:ホルモン拮抗剤と調整薬(Hormone Antagonists and Modulators)
- がん治療で用いられる、女性ホルモンの抑制剤を念頭においている。2010年からサプリメントによく含まれている男性ホルモンの一種アンドロスタトリエネジオン(Androstatrienedione)が禁止対象になっている。
S5:利尿薬とその隠蔽薬(Diuretics and Masking Agents)
- 2010年からグリセリンとパマブロム(Pamabrom)の浄化操作が禁止されている。
SUBSTANCES PROHIBITED IN-COMPETITION
競技中の服用が禁じられている物質
S6:興奮剤(Stimulants)
- カフェインは禁止物質ではないが要観察物質として監視はされている。2010年からエフェドリン様物質・ベンフルオレックス・プレニルアミン・メチルヘキサニアミンが追加された。
S7:麻薬類(Narcotics)
- モルヒネなど。
S8:カンナビノイド(Cannnsbinoids)
S9:糖質コルチコイド(Glucocorticosteroids)
SUBSTANCES PROHIBITED IN PARTICULAR SPORTS
特定のスポーツにおいて使用が禁じられている物質
P1:アルコール(Alcohol)
- アーチェリー・空手・近代5種・ボーリングにおける競技中の禁止物質。
P2:ベータブロッカー(Beta-Blocker)
以上の物質についての概要説明の後、これら禁止物質を用いるとどんな影響となって現われるのか、その危険性について各カテゴリーごとに説明がされている。
WHAT DOES THE LIST MEAN BY "METHODS" AND WHICH OF THESE METHODS ARE ON THE LIST
物質ではなく、「METHODS」(手段)として禁じられている内容について。薬物の摂取という方法以外の禁止行為についてである。
THE PROHIBITED LIST CONTAINS THREE CLASSES OF METHODS THAT ARE BANNNED IN SPORT, BOTH IN- AND OUT- OF -COMPETITION
競技内・外両方で禁じられている、3つの「手段」が禁止リストの中で取り上げられている。
M1:酸素運搬能の強化(Enhancement of Oxygen Transfer)
- 血液ドーピングといわれるものを主に指している。酸素カプセルはどうなんだ、など議論になったことは記憶に新しい。
M2:化学的・物理的な操作(Chemical and Physical Manipulation)
- 採取したものに対する操作だけでなく、カテーテルを挿して尿を操作したりするのも当然含まれる。
M3:遺伝子ドーピング(Gene Doping)
WHAT ABOUT SUPPLEMENTS
ドーピング違反の多くがサプリメントの摂取が原因で起こっている。改めて、その摂取が、これらの違反につながる危険性について注意を喚起している。
また花粉症やぜんそくに処方される薬物には特に注意が必要であることが述べられている。
WHERE TO GET INFORMATION ON THE PROHIBITED LIST?
最新かつ、自分に該当する詳細な情報を、
- WADAのウェブサイト: http://www.wada-ama.org
- ISSFのウェブサイト: http://www.issf-sports.org
- 所属する国のアンチドーピング組織(日本アンチドーピング機構:JADA): http://www.anti-doping.or.jp/
から得るよう呼びかけて、記事は締めくくられている。
COACHING
MOST COMMON CHANGES IN POSTURE DEPENDING TRAINING WEIGHTS
ピストルの姿勢についての連載記事。今回が6回目である。詳細な図や数式を伴っており、面白そうだけれど、ピストルの記事なので省略。
NEWS
ザワー(SAUER)の新しいカタログ・クルーガー(KRUGER)の標的カタログ・セントラ(CENTRA)の新製品3点の紹介が載っている。
セントラのプリズムは、アイピースが半球状になったような形状で、斜めからピープを覗けるようにした代物である。あいかわらずここの製品開発は、精妙で遊び心があってしかも格好いい。トップ選手が使いたがるかどうかを度外視して、「こんなこともできるよ」的なところが面白くて素敵だ。日本人受けする所以だと思う。
[fin]