有馬へ

眼下に町を見下ろして



義父がこの3月に退職した。
それを労おうと、義兄が中心になって、温泉にみんなで1泊する計画を立てた。


いろいろな仕事をしている人たちみんなが、それぞれに早くからうまくスケジュールを空けていたのに、土日は試合とさえかぶらなければ基本的に問題ない、と甘く見ていた私は、年度当初になって、この日に授業参観がバッティングしたことに気付いて青くなった。


「授業参観」に重ねて、保護者を対象とする行事を一気にやってしまうため、例年この日は大変である。
1年生には学科編成のための説明会・宿泊学習の説明会・2-3年生は職場実習についての個別の説明会・PTA総会・・・。
今年は職業学科全体の責任者をしているため、説明会を中心になってやらねばならない。2年生の担任をしているから、三者での個別説明会との縦積みである。珍しく参観授業には当たっていないのがせめてもの幸いである。


旅行の方は、なんとか夕食に間に合うよう、最善を尽くすことにする。


職業学科の説明会は、たくさんの保護者を前にして、ある意味でその保護者の認識を覆すことを目的にして行うものなので、緊張した。
スタートが少し遅れたため、終了時刻も後にずれ込んだが、予定時間通りに終えることが出来てほっとする。


個別説明会の会場に駆けつけると、職業学科の説明会が遅くなることも見越して遅めに設定された予定時刻にはまだ余裕があった。
こちらは、すぐに待たせていた保護者に入ってもらって、予定より早く終わらせることができた。


職場を後にすると、有馬を目指した。
大阪・三宮・谷上・有馬口を経て、有馬温泉駅まで、「乗り換え案内」がなければわからなかったような「最速」ルートで行った。


駅まで義兄が迎えに来てくれて、車で坂を上る。
小さなころに来たきりなので、初めてのようなものだ。
にぎやかな駅前と、急坂に沿って軒を連ねる大きな宿の景色は、湯治町というよりも観光地の風情を強く思わせる。
非日常のながめに、休日だなあ、という実感がわく。


宿には、湯上りで夕食を待つみんながいた。
昼下がりには、甥っ子姪っ子娘とともに、下の街まで散歩に出かけたのだそうだ。


なかなかじっとしていられない小さな子どもたちと一緒だと、他の団体とともに大広間で食べる食事は、なかなかエキサイティングなものになる。
仲居さんとぶつからないかとはらはらしつつ、食べさせたり、外に連れ出して遊んだりと、親戚で集まるときの楽しいどたばたを満喫して、部屋に戻った。


娘はちょっと興奮気味だったけれど、疲れも大きかったようで、いつもどおりの時間に、割合すんなりと眠りに着いた。
カラオケルームでひととき、その後のお楽しみをしているみんなのところへ相方を送り出し、眠る娘と部屋で静かに身体を休めた。


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