学校でビームライフル


週に1度、学年全体で取り組むHRの時間がある。
校外学習など、行事に関する取り組みのほか、キャリア教育・性教育など、教科の枠で扱うよりも、クラスの垣根を越えて学年で取り組ませる方が効果的だと考えられている内容を、ここで扱うことにしている。


この週は、そういったプログラムが空白になってしまい、急遽会議でレクレーションをしようということになった。
他学年との絡みで、グラウンドや体育館などは使えない。クラス単位で何か、ということになれば、学校に置いているデジタルライフルを体験させてみようか、と考えていたら、3つ何か企画を出して、そこを2クラスごとに回っていく、というのはどうか、という話になり、軽い気分で雑談していたのが取り上げられて、卓球などと並んで射撃がそのひとつにそのまま決まってしまった。


1クラスの10人強を1時間半くらいで面倒見るつもりだったのが、25分くらいで20名以上を次々に相手しなければならない企画になってしまった。
ひきうけてしまってから、1セットではとても対応できないことに気づく。


どうしたものかと、今回の言いだしっぺでもある体育科のK先生と話していると、「ビームライフルっていうのがありませんでしたか」、というので、「あるけれど、そんないきなり3日後に貸してくれって言って、ほいほい貸してもらえるようなものじゃないですよ」、とあきらめ半分で答えた。


障害者スポーツセンターが持ってると思うので、まあ聞いてみましょう、知り合いがいるし」、とK先生はいきなり電話する。
スペシャル・オリンピックのスタッフとして、日頃から忙しくしているので、障害者スポーツの世界で顔が広いことは知っていたけれど、貸し出しが前提になっていない、数十万円もする機材を貸してくれたりはしないだろう、と思って横で待っていると、射撃を全く知らないK先生が、電話の合間に会話に出てくる機材のイメージが出来なくて、いろいろ質問を断片的に投げかけてくる。それにぽんぽん答えていると、「いやあ、私はその機械のことはよく知りませんが、指導するのは国体のチャンピオンですから大丈夫です」とかなんとか、調子のいいことを言っている。
おいおい、大丈夫かいな、と思っていたら電話が終わって、「とりあえず2セット借りれました、今からファックスで届く借用書を書いて送り返したらOKです」と言う。
・・・びっくりした。K先生は相当にこの世界で信頼が厚いのだな、と感心した。


それから2日、昨夕ふたりで借りに行ってきた。
手伝ったことはあるが、1からビームの機材をセットしたことはこれまでそうはないので、念のため協会でいつもビーム競技を担当している理事の方に、機材の取扱い上の注意点を電話で聞いておいた。
その夜のうちにセットして動作確認をしたが、特に問題がなくてほっとする。


デジタルライフルも同時に動かそうと思ったのだが、こちらはターゲットとPCのソフトは正常に動くものの、ライフルの方からレーザーがなぜかうまく出なくて、今回はあきらめた。
精度は高いものの、ローテクの香りがするビームライフルは、こういうときとても頼もしい道具に見える。


さて、今日のレクレーションでは、3発の記録用紙と射撃順序を決める紙をあらかじめ生徒に配っておいて、全員の合計点でクラス対抗の勝負をすることにした。
はじめに、生徒といくつか扱いの上の約束をしてから競技をはじめた。
スポーツセンターが貸し出しにあたってSH2用のスプリングつき三脚もつけてくれたので、狙わせやすかった。


総じて「初物には弱い」生徒が多く、現物を見るまでは「興味ないし」、「やりたくない」などいろいろ言う者が多かったのだが、会場の倉庫に入るや、一転してみな興味深深。順番が来ると神妙な様子で構え、真剣に撃っていた。
いきなり10点を撃つ者もいて、表示の点数に周囲も1発1発盛り上がる。


試射なしの3発勝負、1学年60名あまりが挑戦して、30点満点の29点が二人出た。
先生たちにもとても面白がってもらえたし、生徒たちから「またしたい」という声がたくさん聴けて、嬉しかった。
K先生の行動力と、センターから得ていた厚い信頼のおかげで行えた今回の企画、私にとってもとてもいい経験になった。
K先生に感謝である。


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