不況の影・実習先開拓


今年も、実習先開拓の夏が来た。
一昨年開拓した、K市をM先生と再び回ることになった。


不況の深刻化は、開拓前の求人情報調査でも明らかで、求人を出している企業の数が激減している。
私は、中でも最も厳しい「製造業」を中心に回ることになった。待ち受ける展開が予想されて、気持ちが萎えそうになる。
ほとんど求人情報のないところに、飛び込みで学校紹介をしていくしかないのだが、久しぶりにやるとなると、気持ちを奮い立たせるのがすこし大変である。


今年私は、一昨年には当たることのできなかった、市内の二つの工場街にターゲットを絞った。
電車内で、下調べした地図を眺め、覚悟を決める。


4年目であるから、外観から脈のありそうな会社を見つけるコツのようなものは持っているつもりである。
ここまでそれなりに実習先・進路先を複数確実に見つけて、貢献してきたのだが、今年は想像以上に厳しかった。
10数件当たって、ゼロ。全敗は初めてである。


断ろうとされるのに食い下がって・・・という展開があって、そこからが例年は勝負なのであるが、そこまで持ち込める会社が少ない。
去年までなら、たぶん引き受けてくださっただろうなあ、と思われる企業が2社ほど。
おそらくこのあたりが、ここまで私の「実績」になっていた企業なのだろうな、と思う。


今みたいでなかったら、応援してあげたい気持ちは山々なのだけれど、と窮状を社長自ら申し訳なさそうに説明してくださるところ、受付で危機的な状況を手短に説明され、名刺も受け取ってくださらないところ・・・、その現れ方は様々であるが、断られ方に悲壮感の漂うところが多かった。
景気がよくったって、8割方断られるのが開拓であるから、断られるのには慣れているが、その様子が去年までとどこか違う。


会社の経営自体に大きなダメージを受けているところも少なくないが、そうではないところも多い。
不況は、売り上げの減少といった数値上の問題以上に、取引きにおけるある種の「寛容さ」が失わせ、面倒を見てみようという「気分」を失わせる。それが何よりも厳しい。


納期・不良品の有無などについて、仕事はいつも厳しいのだけれど、その中にもある種お互いに対する寛容さがあって、小さな失敗を補い合ってやっていく、という部分も含み持っている。
障がい者雇用は、良くも悪くも、きっかけをそこにうまく組み込んでもらっている。障がい者に関わらず、学生の実習や、もっと広く言えば戦力になる前の新入社員の居場所も、その狭いなりの寛容さの中に存在しているともいえる。


不況は、真っ先にそこを襲う。
細かな過失も許さない不寛容が、真っ先にあらゆる取引の上に覆いかぶさる。もちろん儲からないから不寛容になる、という因果に間違いはないのだけれど、それが全てではない。儲かっていない、という現実が、不寛容をいつも招くわけではないのだ。
お世話になっている企業の、相当な部分は「儲かっていない」状況でも引き受けて下さっている。それが、「不況」となれば、同じくらいの収益下でも実習を引き受けられなくなるようなのである。


教員を仕事として選択した私は、経済に対して「迂回」して生きている。
わずかばかりの「開拓」という接点から、断片的に生々しく感じとるばかりである。

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