大聖堂


ケン・フォレットの「大聖堂」を読了した。
3巻1800ページの大部である。
大聖堂 (上) (ソフトバンク文庫)
大聖堂 (中) (ソフトバンク文庫)
大聖堂 (下) (ソフトバンク文庫)

続編の「果てしなき世界」(これも同じく2000ページ近い大部である)が最近出版され、その紹介をするラジオ放送でこの作品を聞き知った。
児玉清のそのイチオシぶりがあまりにも気になって、思わず購入したのだが、そのイチオシぶりに嘘はなかった。
これほどの作品に出会ったのは、久しぶりである。
モンテクリスト伯を初めて読んで、本ってこれほどまでに面白いものか、と興奮した日のことを思い出した。


イングランドの中世、王権と教会の関係、といった歴史的な背景が、その場にいるかのようにこちらの身に迫り、少し忘れかけていた「聡明さ」や「正しさ」のもつ力に、心から期待を寄せて手に汗を握り、しかも豊穣にして無駄のないスピーディな展開で息つく暇もなく、最後まで全くだれずにストーリーが突き進んでいく。
語りが巧み、とはこういうことかと思い知らされた。


中世のイングランド、フランスのキリスト教世界がどういうもので、人々はどんな生活をして、どのような雰囲気であったのかが、当たり前のようにわかる(ような気にさせてくれる)。
そしてその時代が、「現代を特徴づけているものの萌芽」をたくさん含んだ時代だったのだ、と思わせる力にも満ちていて、現在ではわかりにくくなっている「それら」が、ある種の「普遍」として読み取れるようになっている。
そのために、数々の登場人物が「昔の人」ではなく、強烈なリアルさで現れ、読み進むにつれて次々と感情移入してしまってドキドキする。


大聖堂とは、たしかにそれが作られた時代背景から考えると、とんでもない建造物である。
激動の物語において、大聖堂と都市のたゆみない変化が一貫して背景となっていることが、長い物語をぎゅっとひとつに束ねている。


カテドラル―最も美しい大聖堂のできあがるまで
ごくごく基本的であるらしい建築用語がよくわからなかったりして、せっかくの建造物の描写が、うまく頭にイメージとして描けないのがもどかしくて、途中でデビッド・マコーレイの「カテドラル」という絵本を買った。
ある大聖堂が出来上がるまでを物語りながら、その建築方法を図解するこの本は、美しい絵と詳しい解説で明晰なイメージを与えてくれた。


随分たくさんの人が、「大聖堂」を推薦していたことを、読んでみてから知った。
まだ、物語の感動に心が痺れている。


こればっかりになってしまいそうなので、ちょっと間を空けようと思っているが、いずれ続編も読もうと思う。


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