材木を買って、塗る

塗装した木材



少なくとも、残り少ないこの年度いっぱいは、週末はできるだけ家にいようと決めた。
練習のことも頭を掠めるが、今年は随分と射撃がらみで不在にしたし、まだ不在にする予定が残ってもいる。
何か特別なことをせずとも、ただ一緒にいることが娘や相方から求められる(ひょっとしたら貴重な)時期である。
ほとんどの平日を、母娘二人だけで過ごしているところへ、休日もまた、というのはなかなか心苦しい。


しかし、休みだからと、ただ落ち着いてのんびり過ごすことは、受け入れられない感じがある。
折角家にいるのなら、それを活かして何かをしておかねば、と思ってしまう。
知らず知らず、射撃などで外出する行為を代償しようとしている。


一通り午前中に家事を片付けてしまって、さて、と家を見渡す。
こういうときは、何かを作るに限る。
「作る」心積もりが、いろいろある。
今回は、その中から、勝手口の壁際の棚を作ることにした。


以前、台所の棚を新設した時に、根菜類を置いておくところを2段設けた。
しかし、そこだけでは足りないようで、このごろ常に、棚の足元に野菜の入った小さなダンボール箱が置かれている。
台所のすぐ横に勝手口があるのだが、その周辺は、北側で日の当たらない戸外の小スペースになっている。裸足で出られるように、デッキパネルを敷いたほかは、分別ゴミ箱を置いただけで、この折角の空間は、生協の通い箱などを積む位にしか使っていない。
台所から一歩で出られるここに棚を作れば、積まれた通い箱も、台所のダンボール箱もすっきり片づく。風通しのいい戸外なら、台所の床よりも野菜によさそうだ。


戸外に何かを作りつけるのは、初めてである。
滅多にないが、雨が吹き込んだときに濡れることもあるし、ここは通路を通行する人の目にも触れるので、一手間かけて材をオイルステインで着色しよう、と決める。

構造は、これまでと同じように、2×4材を天井に突っ張らせて柱を作り、棚板を架ける。
通路から棚の中が丸見えにならないように、側面は、突っ張らない飾り柱をはさむように、3本の材を立てる。
また、装飾性が求められる室内の棚とは違うので、繊細なダボ継ぎはやめて、シンプルに1×2程度の棚受け材で、3本の柱をつなぎながら棚板を支えることにする。
最終的には扉を付けたいと思うが、それは次回以降の作業に見送って、ひとまずは棚の完成を目指すことにした。


ビルの梁構造下のくぼみに作りつけるのだが、手前の1本は梁より前に立てるため、天井までの長い材が要る。
脚立に乗って、梁下の高さや天井までの高さを測ってみた。屋内では2m95cmが最長だったが、今回は3m10cmのものが必要と出た。
これまでも設計に使ってきたぼろノートに、図を簡単に起こす。規格材でうまくいくように数字をちょいちょいと修正する。
出かけるのがすっかり遅くなって4時前になってしまったが、そのノートを手に娘・相方を連れて、ホームセンターへ。


棚作りで少し精神的にしんどいのは、この材を買ってカットを依頼していくときだ。
失敗したことがあるわけでもないのだが、大きな「もの」が、私の一言でそれ専用に姿を変えてゆき、後戻りできなくなっていく様に、何ともいえない重圧を感じる。
何度作ってもこの感覚はなくならない。


娘は、大きなホームセンターで押し手と対面になるカートの椅子に座り、珍しそうに周囲を見回して、ご機嫌だった。
道具や家庭用品がずらっと並んでいる様は、彼女にとっては遊園地のような刺激的な眺めだろう。
積み木やおもちゃがあふれてきているので、「おもちゃ箱」として木の箱も購入する。いろいろなサイズがあって、選ぶ上でとても助かった。


材をルーフキャリアに括りつけてホームセンターを出た時には、すっかり暗くなっていた。
帰宅後、荷物だけ何とか下ろすと、相方と共に、夕飯と風呂をやってしまって、娘を寝かせつける。


少し遅くなったが、8時ごろから、勝手口まわりに新聞を敷き、オイルステインの着色作業に取り掛かった。
ステインを乾かす時間が要るので、明日組み立てるためには、今日中にここまではやってしまわなければならない。
壁に材を立てかけ、脚立に乗りながら、油をしみこませた油を塗りたくる。
他の住人の通る通路に面したスペースで、夜陰にするには、かなり怪しげな作業だったが、幸い寒風吹きすさぶ土曜の夜に通る人はなく、1時間弱で無事に終了した。


以前にこういった塗装をした時には、ベランダで行った。長い材の着色は、スペースが要るからここでしかできないな、とその時は思ったものだが、そうでもないことがよくわかった。
必要に迫られて、勝手口前の狭いスペースでやってみると、壁の多いところで立てかけて作業する方が、汚れを防がねばならない面積が少ないばかりか、立てかけておいて脚立に乗って塗ると、材の配置を変えずにそのまま乾燥させられるために、作業自体の効率もいいことがわかった。


やってみて初めてわかること、というのは、いろいろとあるものだ。


[fin]