過ぎ行く


その日は、今年もこともなげに過ぎようとしている。
ただ、ふと気づくと「今」について、この数年を巻き戻した時点から、そして普段自明に感じている様々なものがなかった地点から、眺めている。


目の前には、あの日しゃがんで見つめた川の流れがある。
豊かな水量がゆったりとうねりながら右から左へと移り行き、頭上には雲が垂れ込めて、時折雨粒が頬に落ちる。
河岸には細かな砂利が広がり、明るい灰色がところどころ水に濡れて、濃い青みがかった模様になっている。
その日はただ、水の渦や対岸の常緑の林を眺めていた。
そこに会話の記憶は抜け落ちて、ない。もとよりそこには水の音のほかは、なかったのかもしれない。


その時点から、その地点から、ふと見上げるようにして、独り「今」を眺める。
「今」を俯瞰する目線に思いをはせてみるが、それはただ私の貧弱な想像の中の仮構としか思えない。
それは、私の冷たさなのだろうか。鈍さなのだろうか。


[fin]