金メダルのソフトボール


オリンピックも終盤にさしかかってきた。
このごろ急に朝方めっきり涼しくなり、やたら暑かった日々が嘘のように、早くも秋の気配が感じられるようになった。


今日、女子ソフトボールの決勝戦がある、ということは知っていた。
でも、なんとなく観るのが怖くて、陸上競技のほうにチャンネルを合わせる。


ソフトボールの「ページシステム」というのは、独特のトーナメント順位決定方法で、好カードを徹底的に繰り返すことができるようになっている。
予選リーグの1位と2位になった日本とアメリカは、昨日の午前中に決勝トーナメントの1試合目に「準決勝」を戦った。
両チームとも銅メダル以上は担保され、この「準決勝」では金メダルを争う決勝へ進むか、予選リーグ3位と4位の勝者と銅か決勝かを争う3位決定戦へ進むかを争う。


ここまでオリンピックをすべて制し、この数年も強さを見せつけるアメリカとは、勝っても負けても、金を獲るにはみたび再戦することになるが、日本はエース上野を立てて、延長9回を必死に戦って敗れた。
その報をほぼリアルタイムで知った私は、予選リーグのコールド負けはともかく、この敗戦は少し痛いように感じた。
3位決定戦に勝てば結局は決勝に進出できるわけだが、アメリカより格下のチームを相手に、絶対に負けられない試合をしなければならない。これは、チャレンジするよりも心理的に大変なだけでなく、そこでもベストメンバーで死力を尽くさなければならないわけだ。


日程的なことはあまりわからずに、「大変だぞ」と思っていたら、なんとその日の夜にこの3位決定戦がある、という。「うわあ、なんて厳しいんだ」、と天を仰いだ。
3位決定戦で負けてしまうこともあるかもしれない、くらいに覚悟を決めてニュースを待っていた。案の定、簡単な試合にはならず、アメリカ戦を上回るハードな試合になった。
延長12回、エース上野が最後まで投げきって、オーストラリアに執念とも言えるサヨナラ勝ちを収める。


どうするのだろう。上野はまだもう1試合投げられるのだろうか。それも天王山中の天王山の大試合だ。
こういう試合こそ上野しかない、という結論になるのだろうけれど、大丈夫なんだろうか。
実際の状況がどうだったのかはわからないけれど、結果だけを淡々と見る限り、負けても、その理由にできる材料が山ほどある悲愴な決勝戦だった。


こわごわチャンネルを合わせる。
「!」
2-0でリードしている。点が取れている!
上野が投げていた。
2点リードもつかの間、ブストスにコツンと合わせるような軽いスイングで、スタンドまで運ばれる。
イニングが替わっても、先頭打者に打たれて、あれよあれよと満塁のピンチ。
解説を聞いていると、序盤にも満塁のピンチをしのいでここまで来たという。
もう、画面の前で手を握り締めて見つめるだけだ。
まさに1プレー1プレーに息を呑む思いだった。


コーナーを突いて、ボールカウントもスリーボールまで使って勝負している。
詰まったフライに打ち取って、ここも見事に切り抜けた。
流れを掴んだ日本チームは、最終回となる7回の表、安打、進塁打に続く、執念のゴロと果敢な走塁でみごとに1点をもぎ取った。


あと1回!
しかしやはりすんなりとは終わらない。先頭打者がクリーンヒット。次打者はフェンス際ぎりぎりのファウルフライをきわどくショート西山がキャッチ。息つく間もなく、「だめだ!抜けた!」と思った強烈な当たりが3塁線に飛ぶ。
カメラも外野に振られかけた打球を3塁広瀬がノーバウンドで好捕。チーム全体の執念がグラウンドを覆い、つつくとはじけそうな空気が充満していた。
最後の打者はサードゴロ。1塁手が倒れこむような危うい送球だったがアウト。
解説をしていた宇津木妙子さんの感極まって詰まる声にこちらも熱いものがこみ上げた。


前々回、シドニーの時は、今回のアメリカのように、決勝以外全勝。優勝したアメリカは1次リーグ2敗を含め3敗だった。
何度当たろうと、そこまでで何度勝っていようと、最後の決戦で勝たなければならない、という冷徹な壁がそこにはあった。その壁をギリギリの状態を経て乗り越えたことに素直に賞賛を贈りたいと思った。


ソフトボールチームがすごいと思うのは、世界一になったことはもちろんそうなのだが、「志」が代表チームから代表チームへと濃く引き継がれ、10年以上も強化が後退することなくじりじりと前進を続けているように見えることである。
その分析ができるほどには何も私はわかってはいないが、組織的にか人間的にか、学ぶべき部分はいろいろあるのだろうなあと思う。
興奮が冷めた後に、美談だけでなく、そういう核心の部分も伝わってくることを楽しみにしたい。


[fin]