なつかしき幼少期の住まい


この2週間は生徒たちの職場実習先へ巡回する日々であるが、今日の巡回先は私が幼少期から15年近くを過ごした場所のすぐ近くであった。
引越しで離れて以来、20年ほど訪れることなく過ぎた。
巡回を終えてから、少し遠回りして昔の自宅近辺を歩いてから帰った。


地下鉄が延伸して、バス停しかなかったところに駅ができ、行き止まりの大きなT字路だったところが立体交差の交差点になっている。スイミングスクールに通うために16インチの自転車で走り抜けた、田んぼを真っ直ぐに貫く砂利道が幹線道路に変わっていた。
しかし公団の分譲団地だった家の周りは、驚くほどそのままに姿をとどめ、外壁や街路樹、植栽は手入れが行き届いていた。あちらこちらの小さな児童公園や集会所、片っ端から登っていた木々も記憶の通りにそこにあった。
サブセンターと呼んでいた店舗スペースは、お世話になった小児科と薬局、酒屋のほかはすっかり入れ替わっていたが、そのレンガ敷きの中庭やポストの位置まで懐かしく、増築されて正面の趣は変わったものの通っていた幼稚園も昔からある建物はそのままで、30数年前と変わらず、にぎやかな声が漏れ聞こえてきた。


建物以外の「余白」が潤沢に取られた住空間は、作り手にとってかなり力の入った「理想」の実現であったのだろうと思う。
子どもだから飽きることがなかった、という印象ではなく、こんな遊びも、あんな遊びも…といくらでも思いつきそうで数々の公園や緑地を前に今でもわくわくする。
スケール感は、やはり自分が小さかった時の記憶なので、全体的に小ぶりに感じるが、逆にそのせいで良さがぎゅっと詰まっているように見えた。
今の自分は、ここだからこそこんな風にできあがったんだな、と思うとともに、ここで育ってよかったと心から思った。


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