全国高校選抜合宿・初日


全国の高校生射手の中から、各ブロックで上位に進出した選手が出場する「全国高校選抜選手権」という大会が広島で行われ、その後、引き続いてそこで「強化合宿」が行われる。
2月半ばにその講師を依頼されたときには、責任の重さを感じたが、受けることにした。


試合後、選手たちが戻ってくるホテルに夕方到着する。


私は高校の射撃事情を、ほとんど知らない。全国から「選抜」されてくる選手たちにどのように臨んだらいいかは、なおよくわからない。
大まかな日程表と、ホテルの住所くらいの心許ない情報を頼りに、ああでもないこうでもない、と何を話すか考えながらの道中であった。
スケジュールによれば、講義しなければならない時間がすごいのである。1日目夜2時間、2日目夜2時間、3日目朝3時間。しかも2日目の練習5時間半についても、プランをする必要があるかもしれない。
話の内容や練習についての希望があったら、教えてください、とは受けたときに話してあったのだが、結局なにもないまま来てしまった。参加する選手たちについての情報もなく、前年までにどんなふうにこの合宿が行われてきたか、も情報はなし。


選抜された選手たちなので、1校からそうたくさんの選手は来ない。全国から少しずつ集まってくるであろうから、引率してくる指導者の方も、参加者の比率としては多いであろう。優秀な選手を育てた方々も前にして話をすることになるのであろう・・・。プレッシャーばかりが募る。


資料のコピーだけフロントに頼んでうろうろとロビーで待っていると選手や先生たちが帰ってきた。依頼をしてきてくださった先生の姿は見当たらず、どの先生が中心になって合宿などを進めているのかもわからない。知っている先生を見かけて、ようやく少し落ち着いた。
事務局を務めているというF先生と手短に打ち合わせをした。これだけの大きな大会や合宿も、頼りは経験のある先生たちによる緩やかなつながりだけで、動いているらしく、ハラハラ感は実際に運営をしている先生方も同じ、ということが良くわかった。


夕食で実質的に合流し、7時半から会議室で1回目の講義をすることになった。
試合で疲れているから、「交流」主眼で軽めに、という依頼。
翌日練習の時間の活用方法もお任せ、ということだったので、技術的な話を本格的にスタートするのは翌日射場で、ということに決め、まずは「交流」に徹することにした。
簡単な自己紹介だけすると、こちらが少しでも高校生の様子を知りたいと思って作ったアンケート形式のワークシートを、最初に使ってしまうことにする。


これはまあ、普段の仕事でやっている領分なので、落ち着いてきた。
学校やブロックで固まらないよう、くじで座席をシャッフルしておいて、ワークシートを書いてもらう。練習時間や内容、目標などを尋ねる項目が並んでいる。書きあがったところを見計らって、隣同士交換してもらって、わいわいと話をしてもらった。その後、二人ずつ前に出てきて、自己紹介と相手のシートを見てびっくりしたことをひとつ発表してもらった。
とっさにやったにしては、全国から選ばれて集まっている集団ならではの、いい交流のスタイルになったと思う。


技術について考える合宿にしましょう、と翌日から「どんなことをやってもらうか」の予告を、プリントも先に配布しておいて盛り上げ、1回目の講義は無事に終了した。
選手たちは疲れて眠くなったりするかな、と心配したが、元気に目もぱっちり、もの珍しげに講義に参加してくれたのでほっとした。
あまり「軽め」ではなかったが、反応のよさに手応えを感じて部屋に戻った。


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