世界卓球


日本の男子団体準決勝、日本対韓国戦を観る。


今大会は久々に男女ともメダル以上が確定し、「愛ちゃんブーム」から徐々に抜け出して、「卓球」そのものに関心が集まっている。
これまで、じっくりと試合を観たことなんかほとんどない私だが、ついちらっとつけたテレビ東京系の中継から目を離せなくなって、手に汗を握ってしまった。


第1試合:吉田海偉VSユ・スンミンは、ペンホルダーの攻撃型プレイヤー同士のぶつかり合い。「打ち合い」の力勝負で、強い方が勝った、という感じの試合になった。
フォアハンドの打ち合いは、見ごたえたっぷりだったが、アテネの金メダリストはさすがに格が上であった。


卓球の試合自体を見慣れていないので、何もかも新鮮なのだが、タイムアウトで監督やコーチが険しい表情で、選手に寄ってたかって(という風に感じた)大量に「分析」や「指示」を出す様子に少しびっくりした。
その効果があまり感じられないままに、ずるずると吉田選手が敗れてしまったので、余計に違和感を感じてしまった。


第2試合:水谷隼VSイ・ジョンウ。
日本のエース、といわれる水谷選手は18歳。高校生ながらすでにドイツのプロリーグに参戦して5年目だという。そんなキャリアの積み方がありえるのか…、と驚く。
卓球にサウスポーは有効だなあ、と思いながら観ていたら、解説者が、水谷選手は2歳で卓球を始めるときに「有利だから」と父親が左利きでプレーすることを最初から教えた、と言う。
そうなのか…と呆然としてしまった。根強く定着しているスポーツは、やはりものすごい「ありかた」をしている。


イ・ジョンウ選手はユ・スンミン選手と同様にペンホルダーの強打・攻撃型の選手。サウスポー同士の対戦は、そう頻繁にはないらしく、水谷選手はやりにくかったようであるが、試合の展開は第1試合とは全く違う様相で、見るからに駆け引きをしている様子の伝わってくる面白い局面が繰り広げられた。
第1戦目ではタイムアウトの大量の指示に違和感を感じた私だったが、そんな展開の水谷戦になって、それが違った見え方になってきた。


ゲームをひとつずつ取り合って進むが、ゲームごとに別人のようにスタイルを変える。あっさり取られたゲームの次に、別人のように違うスタイルで圧倒する。
力のぶつかり合いだけではなく、相手のいいところを消しあうような、技巧の競い合いである。たがいにパフォーマンスは発揮できている状態のまま、スタイルや戦略の切り替えの速度や組み合わせ・判断力で勝負が決まっていくように見える。
−となると、ベンチの司令塔の役割は大きい。
早口に大量に伝えられる指示をその場で処理して、その通りに変化する、という力が選手には「重要」ということになってくる。


長距離射撃では、スポッターとシューターは役割分担がはっきりしていて、風・陽炎の判断はスポッターがすべて行い、クリック数の指示までシューターはスポッターの指示に従うという。シューターはいかにその指示に従って、「撃て」の号令から3秒以内にセンターで正確な撃発をできるか、を技術として要求される。


試合の途中で、選手に(大量の、意味のある)指示を与えてスタイルを変えさせる、といったことが上手くいっているところを、射撃において、少なくとも私の近くでは見たことがない。だから、「試合の途中であんなにごちゃごちゃ言ってもダメだよなあ」、ということになっているが、それは、選手やコーチの内実が変わってくれば、ちっとも「当たり前」ではないのかもしれないな、と思った。


「選択」できるほどに、豊富でかつ、明確に把握できた技術が選手にあって、さらに後ろから見ているだけで選手に何が起こっているかが「把握」できるコーチがいれば、「ごちゃごちゃ」いうことで、試合の中で必ず訪れる「山場」、「困難な場面」ごとに、柔軟に切り開いていく、ということができるのかも知れない(いや、それが「当たり前」で、我々が遠くその次元から取り残されているだけ、なのかもしれない)。


・・・というようなことを、ぼんやり考えながら観ていた。


結局、水谷選手は一進一退を繰り返し、圧倒的に取るゲームもありながら敗れてしまった。


第3試合:韓陽VSジュ・セヒョク。
韓陽選手は、中国でナショナルチームに入っていながら出場機会に恵まれず、日本に新天地を求めてきたベテラン選手である。
攻撃力を兼ね備えたカットマンのジュ・セヒョク選手に対して、緩急自在に試合を動かし、うまくミスを導き出す巧みなプレーは、見ていてひとつひとつ思わず声が出た。
ゲームの取り合いとなりながらも、徐々にペースを握り、最後はすっきりと勝負を決めた。
この1勝で2周り目の対戦に進んだ。


第4試合は、水谷隼VSユ・スンミン。日韓の若きエース対決となった。
弾速の速さとはまた違う、プレーの「速さ」があるようで、それが序盤に水谷選手がユ・スンミン選手を圧倒した。
優勢に試合は進むかに見えたが、徐々に火花が散るような激しいラリーが増え、(それは本当に息を呑む美しさだったが)その勝負ではユ・スンミン選手に軍配が挙がることが多かった。
フルセットにもつれ込んだ勝負は最後、一方的な内容であっけなく決まった。


3勝1敗で韓国の勝利。日本が、十分に「敵」としての役割を果たせるレベルのチームであることに感心した。
荻村伊智朗さんの評伝「ピンポンさん」で、東アジアの卓球黎明期における日本の輝きに胸高鳴らせながらも、それは完全に「過去のもの」として楽しんだ私にとって、今回の試合は新鮮な驚きだった。
今は中国からやってきた二人の選手に負っている部分が大きいとはいえ、その二人とともに、水谷選手はじめ3人の若い日本選手がどう成長していくのか、楽しみである。


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