オギャアCD


明日が退院予定日である。


病院では、産婦にそれぞれカセットテープが渡され、新しく生まれてきた子への親からのプレゼント、として
「生まれてきてくれてありがとう」
というテーマで、メッセージを吹き込むことになっている。
退院までに吹き込んだテープを、1ヶ月検診までにきれいなCDに仕上げてくれる、というサービスで「オギャアCD」と呼ばれている。


出生届などの手続きと同時に、これをどうしたものか、というのが宿題になった感じだった。


そういうものがあるよ、と相方に聞いて、じゃ何を言うか考えてみるわ、とちょっとした台本書きのつもりで引き受けた。
次の日に、二人で語りかけるようなのをと、さらっと書いて持っていったのだが、渡されたテープを見ると両面10分、しかもこれいっぱいまで使ってもいい、なんて書いてある。
私が書いたのは「留守番電話のメッセージに毛が生えたくらい」と言えなくもない。この長さではあんまりかな、といったん引き上げて再度考えることにした。


改めて考えてみると、なかなか難しい。
「どういうシチュエーションで聴かれるのか」、「それは何時になるのか」
その辺りがまったくこちら任せなので、仕方ない。
聴くのはこの、今はちっちゃな赤ん坊。それが大きくなったときである。
何を聞きたいだろう。今目の前にいるこの小ささ、かよわさにひっぱられないように、大きくなった娘を無理やり想像して考えてみる。


その時に現実となっていることと乖離した「夢」を聞かされる、というのも辛いであろうし、幼い時期に向けた語りかけをその時期を大きく過ぎてしまってから初めて聴く、というのも気まずい気がする。
今のうれしい気持ちと、徐々に忘れられてゆくであろうこの誕生前後の状況を淡々とあたたかく語ってあるのが聴いて好もしいし、弱ったときに励みになったりもするんじゃないか、と結論した。


妊娠がわかってから今日までのできごと、お腹での様子、今の様子、どんな風に名前を決めたか、などを交代で語る台本を電車の中などで大急ぎで仕上げ、今日無事ふたりで吹き込んだ。
相方は、いろいろな感情がこみ上げたようで、涙を浮かべながら読んでいた。


出来上がるCDがどんなもので、どんな風にこの今は小さな娘に扱われることになるのかは、わからないけれど、「いいもの」そして「いいこと」ができたかな、と思う。
こういうものを作ると、はじめに聞いたときは、なんだか恥ずかしいし、面倒なことになったと思ってもいたのだが、終わってみれば、これはなかなか大事な作業だったような気がする。


[fin]