立ち入り検査


佐世保で凄惨な乱射事件が起こった。
銃器の悪用は、結果の深刻さと危険の及ぶ範囲の広さから、他とは一線を画す重大な犯罪である。


拳銃による長崎市長の暗殺、病院における人違い殺人も、大変心痛む事件であったが、違法に所持された拳銃によるこれらの事件と異なり、公安委員会の所持許可を得た銃器による事件であることに、射撃スポーツをするものの一人として、また違ったかたちで強いショックを受けている。
「通り魔的な乱射」とは異なった背景が徐々に浮かび上がり、銃だけに起こりうる事件というよりも、凶器のひとつとして銃が使われた事件のようである。


報道によってこういった情報を得ているのだが、これでもかと繰り返される、視聴者が喜びそうかどうか、何なら食いついてくるか、を判断の中心にすえているらしいテレビ放送に、今回はかなりうんざりした。
「もはや日本は銃社会です」
なんて、印象的だがいいかげんなフレーズを繰り返しがなって、さも制度に欠陥があるかのように言い立てるキャスターまでいた。


日本は銃の所持や管理について、基本的人権とのバランスいっぱいいっぱいまで公権力がチェック、管理できるように制度や法がすでに整えられており、きわめて高度なガンコントロールが行われている国である。
今回の「管理サイド」の問題点、今後に向けて改善していくべき点を挙げるとすれば、いずれも運用面であろう。


昨晩、管轄署の生活安全課から電話があり、今回の事件を受けた立ち入り検査への協力要請があった。
土曜でいいのでしたらどうぞ、と受けた。雨の中、よく知る担当者2名が(実家の方に間違えて訪問されたりしたので少し遅くなったが)やってきた。
例年の一斉検査と同様に銃器の改造等がないかの確認とともに、ロッカーの設置状況・弾薬の保管状況などの確認をを行い、さらに家庭状況などについての質問をいくつか受けた。
親しみやすい口調で、丁寧に聞き取って帰って行かれた。私が住んでいるのは小さな町だが、数十軒にのぼる所持者がいる。定期的な検査・巡回に加え、今回のように土日返上で、他の通常業務の合間に、追加の巡回検査をして回ってゆくのはなかなかに大変な業務である。


家の中まで立ち入るかどうか、どの程度の検分をするか、どの程度の質問までが許されるか、そのあたりは実はかなりデリケートな部分である。各県警や各所轄署が積極的に判断を下さないといけない部分となっているはずである。
「大問題だ」と騒ぐならば、この国で「適正に」所持・管理が行われる状態とはどういうものであるか、その仕組みについて、法規等の紙面でうかがい知ることのできる範囲はもちろん、その実態についても「知る」方法はいくらでもある。
それらをしっかり知った上で、今回の事件に関与した銃器がそれと比較してどのように管理されていたかを論じればよいであろう。
これらのデリケートな部分に踏み込んで行われている「日本の銃器管理システム」に異を唱えたいなら、その後ですればいい。


ワイドショーはニュースではない、とはいえ、第四の権力とも言われる「マスコミ」や「報道」の一端であるこれらが、そのあたりについてのお粗末な「感度」を拡大再生産してゆく様は、相当に気をくじかれるものであった。


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