再開

腕を編む


今年も夏からいきなり冬になりそうな気配である。10月に入って、急に冷えるようになった。その気候のせいばかりでもないのだが、「クラフト熱」の延長で、編み物を再開した。


すぐ手に届くところに置いたまま、2年弱。最後に触れたのは去年の正月休みだったと思う。前身頃は完成し、後身頃を首の近くまで編んだところでセーターは止まったままになっていた。


流れて去っていく時間を拾って形に留める…。締め切りがあるわけでもないし、完成させることに絶対的な目標があるわけでもない。私の場合、編み物はその行為にこそ動機がある。こんなセーターにしよう、とエクセルで設計図を作るところまでは「クラフト」だが、編み始めると「工作」とはちがうものになる。時間の過ごし方のバリエーションの一つ、といった感じ。


何のために忙しくしてるのかなあ、何で時間削って練習にいくのかなあ、何でこんなことに気を遣ってイライラしているんだろう、なんであの人たちはこんなことに目くじら立ててムキになるのだろう、どうしてこんなことがまかり通っていくのだろう…。
意識の表面に浮かぶもの、浮かばないまま伏流するもの…、様々な憤りや空しさや苦しさ、情けなさ、そのようなものを抗うでもなく静かにやりすごす…。しかし無為に時を流してはいない、と(比喩的にではあるけれど)行為で表す…そんな感じ。


夕食後に家事を終えて、ぼんやりテレビなどを観るひととき、風呂上がりの寝るまでのひととき、数列だけでも編んでみる。


後身頃がすぐに完成し、次は腕がだんだんと編みあがる。今年の冬は久しぶりに、完成させられそうだ。


[fin]