PC教室


だいぶん具合は良くなったが、苦痛でうなっていたときに内科で言われたことや、その後の自分の症状や経過を家庭向けの医学書の記述と比較した印象から、「膵臓炎」の疑いがすっきりしないので、紹介状をもらっていた近所の大学病院に行って来た。


評判は聞いていたが、初めて足を踏み入れてみて、その施設の立派さと職員のきびきびした動きに、「へえー」と感心してしまった。
スムーズに受診・検査・支払いとすすみ、結果的には膵臓・胆嚢に心配はない、という結論をいただいて、ほっとした。


ようやく食欲も戻ってきて、昼過ぎからはほぼ普段通りに過ごすことが出来た。
やれやれ、なんと健康はありがたいことか。
1年に1度くらいのペースでこういう経験を繰り返してきたが、今年はドックに端を発して、自分の「身体の曲がり角」みたいなものを実感させられることが続いた。
親の病院通いに付きそう方が自然な年齢なのに、相変わらず親に出動してもらったりして、少し情けない。


家に帰ってPCを立ち上げていると、母が「5-6年、家がバタバタしてパソコンを触れないでいるうちに、すっかり忘れてしまった。書類も見つからない…」と少し悲壮感を持って言うので、プロバイダとの契約書類などを探してみた。
改築工事のドタバタでどこかに紛れてしまったらしく、見つからない。「メールサービスなどのためにログインすることも出来ないな…」と困ったが、過去のファイルを明けてみるとアカウント名の入ったメールアドレスが残っていた。それを頼りにアタックすると、無事に入ることが出来た。


IEの立ち上げ方から、ログインの仕方、メールの送り方まで、急遽、母を相手にした「PC教室」のようになった。普段生徒相手にしていることが、母を相手にすると、なかなか淡々とはいかず、つい感情的になったりしてうまくいかない。


妹が「娘にはうまくピアノが教えられない」と言っているのと、これは一緒のことなんだろうな、と思うとともに、内心では母に「イライラして申し訳ない」とも思いながら、なんとかメールを送るところまで思い出してもらうことができた。


…ところが、よく考えてみると5-6年前と今では、携帯電話の普及の度合いやプロバイダの事情が大きく変わっている。メールはPCから携帯に取って代わられたり、違うプロバイダになったりして母の友人のPCアドレスは、ほとんどが使えなくなっていた。せっかく頑張ったのに、送れば跳ね返ってくる、ということの繰り返し。ちょっとがっくり、ということになってしまった。


写真やネットもふたたび使ってみようとする母の意欲が報われるように、プリンタのインクなんかを早いうちに補充してあげなくては、と思う。


[fin]