大公開


国体の競技初日。
メイン種目である10mS60M。私は11時15分からの第1射群。


歓声をあげて応援してもらえるスポーツでないため、残念ながらどんなに位の高い大会(たとえば日本選手権)でも選手と役員だけで粛々と進むことの多い射撃競技だが、国体だけはちがう。
競技会場の外にはギャラリー用のテントもあれば飲食物のサービスコーナーや土産物屋まで出て、選手は普段見に来てもらいにくい家族や友人を招待する。「射撃ってこういう競技なんだよ」とわかってもらいたくてもなかなかわかってもらえない歯がゆさを、この日だけはちょっとだけすっきりさせ、自分の周囲に少しだけ理解者を増やし、その後の心の支えとするのだ。


この大会を知った射撃選手は、みな絶対に「選手として出場したい」と必ず1度は強く思う。そして、代表となれた時には、なんとしてでもこの大会でこそいい結果を出したいと願うはずだ。
他のスポーツにとって国体がどういうものかはわからないが、射撃にとっては、国体というのはこういう大会である。
今回は、隣の県とはいえ実質は地元開催。年に1度、どんなに遠くても旅行の理由づけとして見に来てくれる両親に加え、相方とそのお母さんが見に来て下さった。相方母子にとっては初めての射撃観戦である。


昨年は、祖父が見に来てくれたが思わぬ不調でぎりぎり決勝進出を逃し、悔しい思いをした。
果たして今年は…。


10mS60Mは国体では10mP60Mという競技とセットになっている。
立って撃つS60Mは、オリンピック種目であり、決勝まで行われるいわゆる「メイン」種目。
伏せて撃つP60Mは、10m競技としては国際競技会では行われない。50m競技ではオリンピック種目で、その練習競技として各国内でローカルに行われている。
予選はS60を中心に行われ、私はこの種目が得意なため代表となっている。もちろんよくこの種目は練習もしている。
一方のP60だが、50mでは競技も練習もするが、10mでP60を撃つことは普段なく、試合では年に2回だけ。練習もその直前に50mとの違いを調整する程度である。


思い入れも自信も当然S60の方が強いのだが、これまでこの種目で国体に3度出て、S60では1度も決勝に残ったことがない。他の大会では日本一にもなっているし、決勝進出はほぼいつもできるのに…。その悔しさをぶつけて、P60では上位に食い込んで取り返す…ということを国体では繰り返してきた(去年は逆にP60の方で優勝してしまった)。


終わってみれば、本戦得点は584点。
今年も非常に不本意な点数に終わってしまった。
昨年ぎりぎりで決勝を逃したのと同じ点数である。
またしても後ろで観てもらっている人たちを疲れさせてしまったなあ、とがっくりした。


他の選手の様子を聞くと、1射群目の中では2位。
電子標的でリアルタイムに弾着と成績が表示されていくため、すぐに結果がわかる。どうも、後ろに自分のパフォーマンスがあらわになることにプレッシャーを感じて点数を伸ばしきれない選手が多い様子。それでなくとも普段はない団体成績や、お客さんの存在で国体は選手にプレッシャーがかかる。
「今年はまあギリギリ決勝には残れるかな。」
と気を取り直して、いったん荷物を片づけた。


2時間後…。
国体と電子標的のプレッシャーに加え、1射群の点数が低調だったことが2射群の選手に功名心をあおらせる結果となり、なんと!そのまま2位で決勝に進むことになった。
相方のお母さんが用意して下さった豪華なお弁当を、小さい頃の運動会を思い出しながらおいしいおいしいと頬張り、楽しんでもらえた喜びを味わった。
決勝では、プレパレーション終了間際の競技役員の「?」な対応に気を取られた1発目が8点台になり、それがたたって上に詰め寄ることはできなかったが、まずまずしっかり撃ってそのまま2位で競技を終えた。
1位は先日の全日本社会人でも優勝した自衛隊体育学校のM選手。今、この競技で一番強い選手だ。
今の状態から考えられる最善の結果が残ったと思う。


「僕はついてるなぁ」と感謝の念いっぱいになって温泉につかり、今夜は久々に本当にのんびりした気分を味わった。


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