運動会


例年の通りだが、お父さんたちは6時半から園庭整備だ。園から近い家庭は、整備後に家族を迎えに行くが、うちはちょっとそうは行かず、クルマを後で来る子どもと相方に譲ることになるから、今年も駅からFさんに相乗りさせてもらって園に乗り込んだ。2年経って運動会は3回目。すっかり「勝手を知っているお父さん」の側になっていることに気がついて、可笑しくなってしまった。
去年はひどく降られて途中から建物の中に会場を移さざるを得なくなったし、その前も曇り空だった。今年も、まずはグラウンドの水たまりをスポンジでせっせと取る作業で始まり、ゆるいながらも何とか仕上げたものの、準備が終わってお迎えにお父さんたちが散った矢先に雨がぱらついてきた。


例年冴えない、といえば、相方の体調も運動会では今ひとつ、という印象がある。一昨年は新型インフルエンザ騒ぎで、仕事の都合上一日中マスクを外せなかった。今年にいたっては、昨晩からの高熱。
園庭整備に先立って、とりあえずおにぎりさえあればなんとかなるだろうと、4時過ぎから起きだしてとにかくたくさん握って、あとは普段のお弁当と同様に、おかず類を弁当箱に詰めて置いてきた。


何とか雨は雨雲の中で持ちこたえて、運動会はスタート。
相方も何とか到着して、息子と共に建物奥に引っ込んだ。出番の少ない小さい子らは、休養もはさみながら園庭と建物とを行ったり来たりすることになる。
年々、子どもが大きくなると出番が増えていく。娘が1歳だった初めての年は、娘の出番より親の出番のほうがずっと多い感じで、それでも他の子達の動きの豊かさに感動したものだった。
今年は、親子ではスキップのリズムをした。最近できるようになって、とっても得意になっているスキップなので、娘は嬉しそうだった。


息子は、出番は1つだけ。テーブルに差しかけた板を登って、向こう側へ降りる、という内容だった。家では結構ずんずん障害物を越えていく印象だったけれど、衆人環視の屋外で、板の傾斜で、となると勝手が違うようで、段差に慎重になってなかなか降りない。最後のひとりになってしまって、ちょっと先生に手伝ってもらって何とか降りた。


娘の「一本橋」は事前から相当に心配だったのだけれど、大成功。この学年では最古参の部類になる娘とYちゃんのコンビでぱっと飛び出していくのを見て、ああ、よかったなあ、と胸が一杯になる。


楽しみにしていたのは、今年から娘の徒競走がリレーになることだった。去年までは、バトンを持って走り、チームで勝ち負けを喜び合う小さな子どもたちの様を見て、うわあ、大きくなったらこんな風になるのか、とうらやましく見ていた。
どうも競争ごとには熱が入らない質らしく、これまでの徒競走も、観客席なんかをきょろきょろ見ながらゆっくり走っているような具合だった。このごろは、ちょっと変わってきたかな、と思わせる瞬間もあって、リレーになるとどうなんだろう、と興味津々だった。
声を掛け合ったりして、良い感じでレースはスタートした。直接競り合わないように、スタート地点はトラックを3等分してそれぞれから1チームがスタートする。アンカーが走り終わる早さで勝敗が分かる仕組みだ。娘は中盤で走るようだった。
待ち構えて、手を上げて嬉しそうにバトンを受け取ったまでは良かった。思い切り走りそうだな、と期待が高まったが、次の瞬間、バトンを受け取った娘は、猛然と逆走しだした。
大道具のスタンバイをしながら見ていた私は、思わずずっこけた。


親も一生懸命やってその背中を見せる、というのが、この園では行事のあるごとに求められるのだけれど、運動会は(前夜に練習があることでもわかるように)とりわけ熱い。
バンブーダンスや、リズム、なわとびなどの種目以外に(これだけでもたいしたものだと思うのだけれど)、さらに真剣勝負をみせる、「跳び箱」と「保護者リレー」がある。「保護者リレー」は昨年までの「保護者綱引き」に代わる新種目である。東京の方で綱が切れる事件もあったし、これまでも過熱気味で危険だった、ということで変更したようだが、結果から言うと、リレーのほうが危険だったかも知れない。保育園の園庭に描いたトラックだから、半径が小さい。スピードスケートにおいて「ショートトラック」が、技巧を競うに足る種目として成立するように、大人には早く走るのがとても難しいのだ。ましてや、子どもに合わせて慣れない裸足、ときている。「一生懸命」言いつつも基本的にはかしこくセーブできるお母さん方はいいのだが、つい熱くなりがちなお父さん方には、コースアウトしそうになって転倒する人が続出。結構なひどく負傷をする人が続出した。思いっきり自分の親たちに声援を送って、そういう普段ちょっと見られない必死な姿を見られるんだから、子どもたちには本当に値打ちのある運動会だということは間違いないのだけれど。


今年も、相方の両親が朝からお弁当を持って駆けつけてくれた。何とか雨も、相方の体調も片付けが終わる最後まで持った。
いい運動会だった。


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