やっと開催できた技術講習会


定年を間近にして新しい趣味を始めよう、と射撃に取り組む方々がいらっしゃる。
私の所属するライフル射撃協会は、朝日カルチャーセンターの講座のひとつとして「ライフル射撃」を紹介し、ビームライフルを体験できる教室を、10年以上にわたって粘り強く行っていて、そういう人たちが、細々とであるが、絶えることなく入ってきている。マイナーで誤解されやすいこのスポーツにとって、こういった人たちは、とても貴重な存在である。


クラブチーム制を取っているおかげで、入会にあたっては必ず何らかの交友ができて、面倒を見る文化も生き残っているのだけれど、財政難から会員にも使用料が時間単位で課される仕組みになってからは、井戸端だったりサロンだったりした射撃場の役割はすっかり衰えてしまった。以前であれば、もっとたくさんの人たちで、わいわいと射撃を教え、試合にも誘い、新しいコミュニティに加わった喜び、のようなものをもっと味わってもらえたであろう。射撃の技術についての交流も比例して少なくなっている。私自身は、忙しくなってここ数年すっかり練習に行けなくなった。ごくたまに行くといつも、黙々と撃っておられる一団が目に入り、筋違いかもしれないが、どことなく申し訳ないような気持ちになっていた。お金のない学生や若い人達は、射場に来ること自体がめっきり少なくなってしまった。将来にも深い傷となるであろう、深刻な会員減少が若年層にも生じている。帳面上の収支以上に、こういう「環境の衰え」は、取り返しのつかないことだと思うのだが、その受け取り方には協会員の間にも温度差がある。大会を主催できる会場を維持する、ということの重要性は理解できるが、それさえも「高い使用料」が嫌われて「会場」としての地位はすでに相当損なわれてきている。射撃場の存続をめぐる問題は、ただ建物がどうなるか、ということを越えて「長期的なビジョン」が問われるものであるが、その結論を出すに当たってこの1−2年が大きな山場となるだろう。


私にできることがあるとしたら、今いる人達に、射撃技術についての講習会などをして、「射撃それ自体」を通じて人々を結びつけ、「射撃協会」ならではの「コミュニティ」を育てるお手伝いだろうか。特にここしばらくは、新しく射撃を始められた年配の方々と、「恐れ多い」と思われているらしい私たち「国体代表」クラスの人たちとの「垣根」を取り払って、少しでも「井戸端」的な空気を作りたい、と考えてきた。新しく親しくなった方にそんな話をしたら、「講習会、ぜひやってください、聞きに行きます」と言ってくださったので、意を強くし、昨年協会の幹部の方に持ちかけてみた。するとすぐに「それはいい、やろう」となった。何かやらないと、という思いを心のどこかに抱えている人は、多い。


日程の調整に少し手間取ったものの、今日、その第1回目を行う運びになった。
単発で来てもらっても大丈夫で、全部来ても退屈しない、年に3-4回のゆるやかな続きものの講習にしたい、というのが私の希望である。もちろん協会員に限らず門戸は広く開放する。「技術の伝達」が第一の名目だけれど、肩肘はらず足を運べて、来た人同士で交流できたり、講習の内容をネタにわいわいできる関係をつくることが大事である。


内容の配分については随分と考えたけれど、1回目は、学生時代に書いて長らく公開してきた「てびき」をテキストにして講義することに決めた。これを教材にして話すのは、今年1月の熊本で初めてやったけれど、この時は指導者に指導法を提示する、という組み立てだった。今回のように「初心者」として参加してもらう人を相手にするとなると、またちがった話になる。


今回参加されるだろう方々になったつもりで、あらためて読み返してみた。執筆した当時、私にとってほとんど唯一の文献だったものの、総覧的な作りで、初心者こそが知らねばならないのに初心者にはあまりにとっかかりにくかった、協会の「ライフル射撃教本」。それを噛み砕いて再編し、技術要素をひたすら厳密にステップを踏んでわかりやすく提示したのが身上の一冊である。もう20年近く前に、まだ自身が「初心者」の域にありながら、必死で考えた構成だったが、それぞれの段階で必要な理論的なミニマムエッセンスが配してあったり、随分巧みにできたものだなあ、と思う。自画自賛
据銃・照準・撃発・フォロースルーの4要素を順を追って練習の主眼に据え、静止・照準方法・撃発方法と要素別に練習させ、最後に銃の方向性をコントロールする練習を持ってきてある。潔癖なくらい厳密な手順の踏み様だが、そのせいで結果的には、「黒点をきちんと狙う」ということがいかに難しいことであるか、ということを考えさせるつくりになっている。当時の私はもちろん、連綿と指導を受け継いできた代々の部員たちが、その難しさに対峙していたことを反映している。どことなく初々しい。


随分ページ数があるので、「できるだけプリントアウトして」と事前に協会のHPに告知をしてもらったものの心配で、何部かは用意しておいたのだが、集まった20名ほどはみな持ってきてくれていた。何がどう変化していくことが「上手くなる」ことなのか、それを感じ取り、前に進んでいくためにはどうすればいいか、というようなことを、執筆当時の初々しさを振り返りつつ、しっかり話せたと思う。質疑応答も含め、2時間弱はあっという間に過ぎた。その後、会場に残った人たちと一緒に昼食を食べ、いろいろな話をした。ひとまず親しみやすい雰囲気で、構想していた通りのことができたと思う。私自身もずいぶん楽しめた。第2回は、国体が終わってから、秋に行う予定である。


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