ぼうしとぞう

ぼうし



少し前のことだけれど、娘がリバーシブルの可愛い帽子を従姉妹からもらった。
その色かたちだけでなく、「お姉ちゃんにもらった」ということが嬉しくて、その帽子はすっかりお気に入りになった。
得意気に、
「こっちでかぶろうかなあ、こっちにしようかなあ」
と、ひっくり返したり、また元にもどしたりしながらかぶっている。


娘には別にもうひとつお気に入りの帽子がある。
まだ相方抜きで、私と二人だけで出かけるのが珍しかった頃に、たまたま帽子売り場を通りかかって一緒に買った、自動車の刺繍がついた、やわらかいデニムの帽子だ。(結構これには、私自身も思い入れがある。)これは(まあ、普通のことだと思うけれど)、リバーシブルではない。


娘にとって、今回嬉しかったのは「帽子そのもの」なのはもちろんなのだが、それと同じくらい「帽子って、裏返してもかぶれるんだ!」という「発見」でもあった。
「どう?」
と、これまた得意気に、デニムの帽子もひっくり返して、刺繍の裏地を表に向けてかぶって見せる。
「うーんとね、それはひっくり返してはかぶれないのよ」
と相方が説明した。
「えー、なんで。もらった帽子はこうやってかぶれるのに。」
「ひっくり返してかぶれる帽子と、ひっくり返してかぶれない帽子があるの。」
「…。」
娘はちょっと真剣に考えてから出し抜けに尋ねた。
「じゃあ、うんこをする象と、うんこをしない象もいる?」
「へえ!?」


娘は、「なにかができるなにかと、なにかができないなにか」という並列の部分に、ピンとひっかかるものがあったらしい。
「えーと、うんこをしない象っていうのは、お人形の象かな?」
相方は、驚きと笑いを噛み殺しながら、ちゃんと相手をしてくれたらしい。
結局どんな風に娘が「納得」したのかまでは、あとで聞いた話だから、よくわからない。ただ、この時期に特有の言葉や論理をめぐるいろんな試行錯誤が、時としてこういうかわいらしい形で垣間見えるのが、本当に面白く、愛おしくもある。


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