竹やぶで竹を切る


今日は、保育園の作業日だった。
お父さんたちは朝、8時半に園に集合して、いろいろな作業に散った。


昨晩は、職場の歓送迎会だった。
1年任期で務めた懇親会幹事にとって最後の仕事だったのだけれど、生徒対応と検定の申し込みや振込関係の作業に会議まで重なって、間際までひどい忙しさだった。
司会なのに、受付時間が始まってから会場入りし、なんとか役割を果たした。
たかだか60人規模の会とはいえ、ホテルの宴会場で改まった形で司会進行をするとなると、まあ「仕事」みたいなもので、歓送迎会が完全に終わった21時半にはぐったり、という感じだった。


相方と子供たちは、保育園からそのまま先に相方の実家へ帰っていて、家は空っぽ。私だけが今日の保育園の作業に備えることにしていたから、幹事をした人たちと、ひさしぶりに二次会に繰り出した。
ちょっといい感じの和風の居酒屋でやっとくつろいで、日付が変わる頃、家に帰り着いた。
今朝は少し身体が重かったけれど、しばし仕事から解放された安堵感で、その重さも悪くなかった。


作業の担当は「竹やぶ」だった。
園舎に隣接する竹やぶの手入れである。
ここは隣家の敷地らしいのだけれど、低い柵で区切られているだけで出入りは自由になっている。近々正式に借りて、小さい子の遊び場をつくる計画があるらしい。


竹やぶ、というのは、イメージとしては地面から天に向かって縦の線が折り重なっているもの、だと思うのだけれど、何というかこの竹やぶは縦に斜めや横の線が入り乱れて、もつれたジャングルみたいになっていた。
たくさんで分け入って、真っ直ぐと立っていない竹を選んで切る。
足元も、倒れたり、以前に切ってそのままにしたらしい竹で荒れていた。
せっせとそれらを運び出しつつ、絡み合った藪を整理する。


はじめは、どれを切ったものか、少し遠慮があったのだけれど、高いところで折れて地面まで垂れ下がっているものや、斜面の上から手前へ倒れかかって、他の竹と絡み合ったようになっているものなど、『大物」が「荒れ」の主たる原因ということが分かってきて、こりゃ、片っぱしからやるしかないな、と方針を転換した。


美女と竹林 (光文社文庫)
作業しながら、森見登美彦の「美女と竹林」を思い浮かべずにいられなかったが、なるほど竹を切るのには得も言われぬ快感がある。
竹を切るのは、他の木とは比べものにならないくらい容易だ。しかも軽い。超大物を切り倒しても、ひとりで引きずりだして、うまくすればぶん投げることもできるのだ。
枯れて乾いてしまったものは少し質が悪いが、青みがかっているものなどは、鋸一本で思うままである。


竹が垂れ下がって縺れ合っているところがひとつあると、原因になる竹の根はそこから相当に離れてバラバラにある。変な順に切ってしまうと、さらに周囲の竹を巻き込んでしまったり、切った竹が引きずり出しにくくなったりするから、何かパズルを解くような具合である。


もとより私は、何というか「きれいに片付ける」みたいなことにはつい張り切りすぎる性分で。つい黙々と頑張り過ぎた。周囲はそんな姿に呆れてしまったのか、それとも他の仕事が増えたからか、ふと気がつくと林の中で奮闘しているのは、私ともう一人の若干年配のお父さんのふたりだけになっていた。
竹の縺れの原因をたどって、斜面の上の竹へ上の竹へと切り進むうち、結構な所まで来てしまった。
ずいぶん見通しがよくなって、いわゆる「竹林」の縦の線の感じになっていたので、ほっと満足する。
藪の外に出てみると、午前中いっぱいで切り出した竹は、文字通り「うず高く」という感じで積み上がっていた。ずいぶん切ったものである。
これくらい切って、やっとこういう風になるのか。
「手入れ」の必要さ加減を改めて知ったように思った。


張り切り過ぎた代償はすぐに来た。
疲労から腹筋がしびれたようになって、どうにもうまく動けなくなり、へたりこんでしまった。
よろよろと自分が使った道具だけ片付けると、もうどうにもダメで、他の作業班が、完成した新しい滑り台を設置したりしているのには加われず、園舎の縁側でただ座ってそれを遠く見守る。


13時頃から、みんなで昼食をいただいて、一息つく。
これまで、あまり参加できていなかったが、本来、年に5回はこういう作業には出なければならないことになっているのだそうだ。
年長の子をもつ父親は、午後からも作業があるらしく、昼食後再び園庭に散っていった。おなじ年齢の子を持つお父さん同士で、年長さんになったら、大変だなあと、少し不安含みに話した。
じゃあ私たちは、これで失礼しましょう、と14時ごろに、園を後にした。


車に戻ると、前の職場の卒業生からメールが届いていて、今日の同窓会には来ないのか?、とあった。
今日は、毎年恒例の同窓会の日である。作業と重なったから今年は無理かな、と諦めていたのだが、まだ卒業生が残ってるなら、と立ち寄る。
いつもは前半に顔を出して、途中で帰る、というパターンだったのだが、会はいつも15時ぐらいに閉会するのだそうだ。
懐かしい教え子たちと、つかの間再会を喜ぶことができた。


閉会後の片付けに付き合って帰宅すると、さすがにぐったりとなってしまった。
相方の実家へ、練習の支度をして今晩中に移動するのは勘弁してもらった。明日練習の帰りに立ち寄ることにする。


近所の実家へ顔を出して、夕飯と風呂をいただく。
GWの終わりにしようということになった、息子の初節句について、簡単に打ち合わせたりした。
鯉のぼりを出しても、そのへんに擦って汚れないように、明日は、ベランダの掃除だけしてから練習に行こうと思う。


[fin]