羊とヤギに会いに行く

温室で



昨日の朝、石巻から電話がかかってきた。
「荷物を送り返せるようになったので、住所などを確認したい」、ということだった。
「この度は」といいかけて言葉を失い、受話器を持ったまま恐縮する。
思いのほか早かった。開幕戦に道具が間に合いそうで、すごく嬉しい。


今日は、また、娘と出かける。
どこに行きたい?と話すうち、この間怖がって全然ダメだったヤギや羊の話をしていたためか、ヤギさん見に行く、と言い出す。
ホントに?大丈夫なの?と確かめるが、大丈夫ヤギさん見に行くの。
というので、まあダメだろうなあと思いつつ、そう言うときがいい機会だから、と急遽行き先を変えて、のどか村に出かけた。


冬のオフシーズンが明けて、急に活気づいていた。
これまで行ったのは、ひっそりとしているときばかりだったので、駐車場に係員が何人かいるというだけで、かなり驚いた。


今日は真冬並みの寒さだった。
うさぎの小屋を覗いたあと、早速ヤギと羊を見に行った。
たくさんのちびっこが見に来ていて、娘もそれに混じってヤギや羊の近くまで行ったが、やっぱりなんとなくへっぴり腰で、遠巻きにしている中の一人になっていた。
入り口に、自動販売機でえさを売っていて、それを買って、餌やりに挑戦する子もいた。うまくできたもので、もなかの皮の中に、ビスケット状の固形飼料が入っている。
娘は、どうもこれがすごく気になったようで、それを持った子どもの近くにいっては手許ばかり覗き込んでいる。
「やってみる?買いに行こうか?」と聞くと、「する」というので、まあ難しいだろうなあと思いながらも、したいと思うならいい機会だし、と買いに行く。


えさを持った子を見てみると、どの子もみんなへっぴり腰で、しっかり口元に手を差し出せないので、ヤギや羊はうまく食べられないで餌をポロポロと落してしまっている。もらう側からすると、鼻先で餌を次々と落されてしまうわけで、羊もヤギもちょっと殺気立ち、子どもには余計に怖く映る様相になっていた。
ちびっ子たちはみな、大人と一緒に来ているのだが、その大人たちは、「ほら、しっかり渡してあげなきゃ」とか「怖がらずに」とか、口ではずいぶんとうるさいが、誰一人として、やって見せてやらない。なんだ、偉そうに言ってるけれど、この人たちも怖くてようやらないんじゃないか、と情けなくなった。


私は、へっぴり腰の娘と柵の前に並んでしゃがみ、「こうやってやるんやで」と、もなかの皮を破って中身を出し、羊に手をなめさせるようにして餌をやった。
娘は、ちょっと困ったような笑みを浮かべながら、固形飼料を私の手から取って、意を決して羊の口元に手を伸ばした。もうちょっとのところで後ずさってしまって、うまく行かなかったが、口が触れなくてもあげられる、大きな「もなか」の皮の部分を娘に担当させて、なんとか娘も「えさがあげられた」ようにしてやる。
ほかの子にも、噛まないよ、舐めるだけだから大丈夫だよ、と励ましたり、羊やヤギの頭をなでたり声をかけたりしてなだめながら残りの餌を食べさせて、その場を離れた。


娘は、気に懸かっていたことが無事に済んだ、というような、ほっとした様子をしていた。
「羊とやぎ、けんかしてたなあ」。
餌を巡って押し合いをしていた様子について、後でしみじみと語っていた。


遊具やアスレチックを一通り楽しんで、お昼過ぎにのどか村を後にした。
出口の物産店で、娘にお菓子を選ばせたのだが、それを買った後で「あのジュースが飲みたい」、と一悶着になり、「約束とちがう、だめ」と強引に車まで連れ帰ることになった。
必ず、こういう場面が一度はあるなあ、と思いながら、お茶を飲ませて気持ちを落ち着かせ、懇々と話してこちらも譲らず、10分くらいやりあって、ようやく娘も納得する。
一旦落ち着けば、後はけろっとしてしまうのが、娘のいいところである。


買って帰ったえびの大きなポン煎を、「ママにお土産」と誇らしげに渡して、昼食の後でみんなとうれしそうにそれを食べた。


[fin]