入試問題漏洩のニュース

部員たちと



今回の合宿には、携帯電話を持っていくのを忘れてしまった。
「自然の家」は、テレビも新聞もない。
徹底的にそういうものから切れるのは久しぶりだ。


昨日は、3・4回生の大部屋で一緒に泊まった。
彼らが携帯電話を覗いて、ぽろっと漏らすニュースがすべてだ。


今、母校はじめ国公立大学では入学試験の真っ最中なのだが、どうもインターネットの掲示板に、試験時間中に問題の解法を求める質問が出た、らしい。
聞いた瞬間に、いかにもありそうだし、よくもそれがすぐにわかったものだな、と思った。
そう思ったのは、深い階層があったり、たくさんの板があって見通しの悪い、マイナーな掲示板を使って、外部に共犯者を置くようなものをイメージしたからなのだが、使われたのが「Yahoo知恵袋」だというので、顎が外れそうになった。


はあ、なるほど。
質問を寄せる掲示板のレスポンスがどのくらいのものなのかは(質問の種類にもよるだろうし)、よくわからないのだけれど、そいつはオープンに回答を求める方を取ったわけか。
その「あっけらかん」さ加減が、何とも私には「不思議」な感じがした。


うちの部に、この間のバレンタインデーに、四条大橋で「チョコください」というたすきをかけて立ち尽くす、というパフォーマンスをした部員がいる。掲示板に実況を流したら、いろんな人が次々やって来て、たくさんのチョコやらなにやら貰うことになり、相当に愉快なことになったらしい。
昨晩、その話を面白おかしく聞いて、さすが森見登美彦を輩出したクラブだけのことはある、と思ったのだけれど、今回のこととなると・・・。ネットのレスポンススピードはそこまでアテにできるものなのか。


報道された、まさにその大学にいる彼らの間に流れた、「ふーん」という空気は本当に微妙な感じだった。


「そんなにはいりたいんやったら、入らせたればいいんや。」
一人がぼそっと呟いた。
表向きにはあまり出ない意見だろうけれど、何となくその意見が持つ「感じ」は、その部屋にいる者たちにとって敢えて否定する必要を感じないような、「わかりうる」ものとして響いた。


そんな風にして大学に入れば、相当な負い目を最初から背負い込んでスタートすることになろう。
有名大学というのは、何もなくても、よくわからない「負い目」みたいなものに苦しむところだ。実際にそれにつぶされてしまう人は、たくさんいる。
よほどのつわものでない限り、みな入学後それに、ある程度苦しんでいる。
そのことと関わりがどのくらいあるのかはわからないが、悲しいことに自殺者も多い。
そしてまた、ただ入っただけで、何かとってもいいものが得られる、というようなものではないことも、身に沁みている。


さて合宿の方は、昨晩は20時半からふたたび、技術面について、ごく基本的な「原論」みたいな部分を話す講義を22時過ぎまでして、その後はまた、広間で深夜まで姿勢に関する練習会になった。
今日の午前中、10m組は三姿勢の記録会をしている。
その様子や50m組の練習を見て、昼休みに個別にコメントを一通りすると、まだ合宿は途中だったけれど、ミーティングを開いてもらった。
また必ず一緒に練習することを約束し、後をIくんに託した。


彼らはいい合宿ができている、という手応えを感じながら、射場を後にした。


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