全国高校射撃部技術講習会

熊本空港



今日は、高校の射撃部で顧問をしておられる先生方を前に、話をした。


私は、ある選手を(例えば)3年間、じっくり付き合って育てた、というような経験がない。
職業射手でも、職業コーチでもない。
射撃というスポーツについて、選手としての経験は比較的豊富で、コツや理屈を多少知っているが、それだけと言えばそれだけである。
そこに公認コーチの資格と、協会を通じた推薦によるJOCの委嘱状やコーチとしての指名が乗っかると、「指導者」となる。


そんなことを思うのは、正式な形で「指導をしている人たち」を前に「指導者として立つ」に当たっての、「自問」からである。


高校で射撃部の顧問をしている方々は、「生徒」でもあるたくさんの選手たちと、仕事の一環として深く関わり、3年という時間をかけて繰り返し育て上げてきた人々である。
顧問に充てられていきなりこのスポーツに関わらされた、という経緯を経た方が多く、射撃についてその時点でこそ「素人」だが、そこから試行錯誤を経ればもはやそれは素人ではない。
私のような者と比べたとき、果たしてどちらが「指導者」といえるのだろうか、と思ったりもする。


今回は、初心者への指導法がどう行われるのがいいか、ということをまず第一に、そこへ、指導の背景にある理論の必要な部分の解説を加える、ということを第二とする枠組みで講義をすることにした。


第一の部分については、母校の部内指導書として作るとともに、長く公開もしてきた「初心者と教習者のためのてびき」を、教材として初めて使った。
これは、私が学生時代に書いた、とは言うものの内容の殆どは協会が発行していたライフル射撃教本に拠っている。
ライフル射撃教本そのものは、どのように教え(学び)、どう説明すれば(読み取れば)その内容を実現できるか、ということについては、どちらかというと取り付く島のない感じのものである。それを、部で蓄積された指導経験上のノウハウや私見を加えて、教科書あるいは教則本のような形に編集しなおしてあるところに、この冊子の意義がある。
昨年、20年以上の時を経て、新しいライフル射撃教本が発表された。今回を機にそちらも改めて読んだけれど、その感じは同じだと感じるとともに、「てびき」が理念や内容について随分とこれに忠実なものであることを再認識した。


考え方、特に、練習によって何が身について「しまうか」について早い段階で教えること、「的に向かって撃つ」練習をいかに先送りして、基本的なことを習得させてから撃たせられるかが、一見同じに見える初期の上達期が終わった後の「射手生活」を運命的に分けてしまうことを訴えた。
第二の部分は、選抜されてくる選手たちを対象にした合宿で常々話している内容である。ただ、それが、「初心者」にそのまま語ってしまうことが害にもなることを今回は強調する。


2時間半はあっという間で、途中1度の休憩を挟んで、さらりと終わった。
全体としてどのように受け取ってもらったかは、わからないが、F先生など、よく知っているけれど話を改まって聞いてもらうのは初めて、という先生方から「期待していた通りとてもよかった」、と言っていただけたのでほっとする。


昼過ぎに講義と連絡会が終わると、先生方は三々五々と散っていった。
私は、C先生にM先生とともに昼食をご馳走になって、その後空港まで送り届けていただいた。
空港で数時間をゆっくり過ごして帰途に着く。
キャビンアテンダントのひとりが、このフライトをもって退職するのだという。
JALは厳しい経営状況から相当な人員整理が行われているようだから、そのあたりと関係あるのかもしれない。
着陸後、感極まって涙声になってしまったアナウンスに、機内の人たちはみな温かい拍手で応えた。
明日から私もまた、がんばらねば。


[fin]