熊本へ

熊本城を望む



土曜日の今日、相方の実家を経由して、昼過ぎに大阪国際空港を飛び立った。
熊本で行われている、全国高校ライフル射撃部定例総会へ、技術講習会の講師に招かれてのことである。


幾度目かの熊本であるが、いつも大会がらみなので、フェリーやレンタカーで移動することが多く、大抵は市街の中心部には足を踏み入れずに帰ってくる。
空港から、初めてのバスに乗って、バスセンターを目指す。
降り立つと、すぐ横に熊本城がそびえていた。
地図を見ても、今ひとつ方角がよくわからなくて戸惑ったが、動き出してみると宿泊先は歩いてすぐのところにあった。


会場は、ここから車で10分ほどのところにある県立体育館であるが、初日は私はお呼びでない。来年の事業内容や、件の銃刀法改正によって生じている様々な問題について、おそらく重苦しい議論が交わされているはずである。
私は18時ごろから行われる懇親会で、合流することになっていた。
会議から先生方が戻ってこられる時刻まで、約1時間あったので、持参したプリント類を綴じるファイルの購入がてら、付近を散策することにした。


熊本のアーケードは、どれも馬鹿でかい。
テルマンに尋ねて出たが、文具を取り扱う大きな店は、やはり教えてもらったとおりTUTAYAのほかにないようだった。
横綴じのA4ファイルが欲しかったのだが、百貨店やスーパーの文具コーナーでは見つけられず、TUTAYAでやっと紐で綴じるタイプのものを手に入れる。100円ショップでカラフルな結束バンドを買って綴じると、なかなかいい感じになった。


17時半ごろに宿に戻って、明日の講義の下調べをしていると、電話がかかってきたので、ロビーに下りた。
大きな大会で見かける顔ばかり、しかし親しく話したことのある人はそのごく一部分、という人たちでごった返していた。
30数人という人数、こうして集まってみるとなかなかのものである。
うわあ、この人たちを前に明日は話をするのか、とちょっと身構えるような感じになる。
山口県のT先生の姿が見えたので、懇親会会場まで一緒に移動した。


M先生が手配して下さった店の座敷にぎゅうぎゅう座って、馬肉を中心にした熊本の料理を豪勢にいただく。飲み放題でこれだけの料理を食べて、どうして4000円に収まってしまうのだろう、と驚いた。
高校の射撃部を経験していない私には、多少事情がわかるようになってきたとは言え、まだ基本的に知らないことばかりで、地方協会や各府県の体育協会、学校内のほかのクラブ、警察や銃砲店などとのいろいろな関わり方やその中での苦労話は、どれも新鮮だった。


先生方同士の付き合いの濃さもあって、大勢は大挙して2次会へと移っていったが、私は体調も今ひとつだし、明日のことが気がかりでもあったので、1次会が終わるとT先生と早々に宿に戻った。
コーヒーなどを買い込んで、T先生の部屋で少し話したのだが、そこで聞かされた、意欲的に進学に取り組む地方の私学の情勢は大変刺激的で、唸らされた。
手段にはいろいろ賛否もあろうが、まず成し遂げたい理想を掲げて、そのために必要なものを貪欲に取り入れ、開拓していく姿勢はまぶしく映った。
かたや私たちは、そろばん勘定優先で常に現場が値切り倒され、爪に火をともすような綱渡りの運営を強いられながら、コンプライアンスだ自己評価だ、と組織防御のための実り少ない作業に多大な労力を費やさせられている。号令だけは「民意」を意識した立派なものだが、「比較優位」以上には何もない理念で動いているために、現場に伝わるのはその場その場の矛盾も厭わない指示ばかりだ。現場で蓄積され、築き上げた成果や問題意識はあまり意に介されず、どちらかというと粗雑で安っぽい原理主義で現場の足を引っ張るのが「中枢」だ、というのが当たり前になりつつある。


さて、部屋に帰って明日の資料を開いてみたが、疲れがどっときて、「朝にちょっと整理したら、なんとかなるだろう」という気分の方が勝ってしまった。
おそらく今晩は、これからあちらこちらでサッカーアジアカップの決勝戦にエキサイトするのだろうな、と思いながら、ばたっとベッドに倒れこみ、そのまま眠りに着いた。


[fin]