誕生

誕生



昨日は、私が娘を保育園に送っていった。
相方の職場からはほど近い園も、相方の実家からでは、高速も使って約40分。結構な距離である。
娘を無事預けると、ついで久々に自宅に戻り、いっぱいになった郵便ポストを空け、植木や水槽に水を補給する。
実家にも顔を出して経過を説明し、再び車を駆って11時ごろまでに相方の実家へ戻る。


じわじわとだが、すでに破水した状態であることには変わりないので、今日は促進剤を使っていくことが朝の検診で伝えられたという。
10時ごろからスタートしているが、そうすぐには陣痛につながらないだろう、ということだったので雑用に走り回ったようなわけなのだが、昼からは病室に詰めた。


着くと、点滴とモニターをつけているものの、いつもと変わらない相方が病室にいた。
非常に微量からではあるが、すでに2段階ほどペースを上げた促進剤の効果か、昨日よりははっきりとした張りが10分ちょっとの間隔で来ていることが、素人目にもモニタの数字で認められた。しかしその周期と強さがそこからなかなか進まないのは、前回のお産とそっくりだった。


程なく周期が一応5分くらいになっていること、痛みの質がお尻のほうを突くようなものになってきたことから、LDR(分娩室)に移ることになった。
荷物を持って私もごそごそとついていく。
LDRは前回の病院と同じように、産婦がリラックスしやすいようにごく一般的な家庭の大きめの部屋といった感じにしてあった。今回は、立会いをする家族との間を必要に応じて仕切ったりするカーテンすらない。前回は、さりげなく設えられた収納から、いろいろなお産に必要な医療器具が、お産の進行に合わせてどんどん出てきたのに驚いたけれど、それも見当たらなかった。どうやら必要に応じて他所から運び入れるようだ。


いろいろな人に「二人目は早いよ」と言われていたので、「いよいよかな」とも思ったのだけれど、前回はとにかくここからがすごく長かったのが印象的で、ここまでの経過もそれとそっくりなので、私の中ではどこかのんびりとした気分が否めなかった。でもまあ、今日中には出てくるんだろうなあ、とは思った。
仕事を休んで二日目なので、もう生まれた?と何人かからちょくちょくメールが来ている。「いや、まだなんです」、と返さないといけないのは、ちょっと困った感じがする。


あまりぐっと進まない、とは言え、周期的に来ている張りや痛みは相当なもので、それがだらだらとずっと続いているわけだから、早く出てきてほしい、と相方は相当に思っていたはずである。
メールで、LDRに入ったことだけそれぞれの親に伝えて、見守った。


その後も徐々に促進剤を強めつつ一進一退した。
薄暗くなるころにはお産用の機材の搬入もあり、いよいよかなという時期もあったのだが・・・しかし、夕方になっても本格的な「陣痛」まで進まず、夜のシフトに移行するとスタッフが手薄になることや、午前中からずっと「お産一歩手前」でがんばっている母体の疲れも心配されることから、結局、翌日に仕切りなおすことになってしまった。
そうなると、仕方のないことなのだが、ばたばたと広げられた機材が片付けられて、LDRは入ったときと同じがらんとした部屋に戻された。
相方は、終わらないことの辛さや、うまく自分の力で産めなかったというようなふがいない気持ちや、痛みや疲れから泣き出してしまった。


何と励ますのがいいか、ちょっと詰まってしまいながら手を握った。
半日が過ぎる間に、助産師が夜の担当の人に代わったのだけれど、その方が
「赤ちゃんがまだ出たくないと言っているのよ、呼吸がちょっと合わなかっただけ。わたしたちがちょっと先走ってしまったかもしれないわね」
と優しく励まして下さって、少し張り詰めた感じが和らいだ。
落ち着いて、歩いて病室に戻れるまで、しばらくそのままLDRでふたり、ただぼんやりとしていた。
その後、ふらふらと病室に荷物を抱えて戻り、昨日と変わらない夕食を摂るのを見届けて、私は引き上げることにした。


実家に帰ると、娘が食事を終えようとするところだった。お風呂に一緒に入り、いつものように義父たちに手伝ってもらいながら寝付かせた。
連絡があったのは、9時も回ってからだった。
義父に寝ている娘を任せ、相方の母と共にすぐ病院に向かう。
時間をおいて、ようやく自発的な陣痛が始まったとのことで、再びLDRに戻っていた。
明らかに痛みの様子が前と違っていて、ああ、これが陣痛だったな、と傍にいるだけの私も思い出すような具合だった。
赤ちゃんの回転と下降を待つ、という状況でじりじりと痛みに耐える時間が過ぎる。
途中、どうにも寝ている姿勢が耐えがたく、座位を取ったり、あまりの辛さに泣き言を叫んだりと、第一子のときを思い起こすような場面が再び繰り返された。
どこまでもそれが続くのではないかと思ってしまうほどに前回はそのような状態からも相当に時間がかかったけれど、今回は2時間あまり、日付が変わったころに一気に進展した。


12月2日、0時18分。大量の羊水と共に、第2子の男児が無事に誕生した。3900g超の大きな子だった。
助産師さんの励ましのタイミングや内容、介助の手つきは鮮やかで、娘のときと同じくベテランの助産師さんに今回も助けられたな、という印象を強く持った。
産婦である相方との相性のようなものは、何となくあると思う。
大きく生まれただけあって、どことなく生まれたてと思わせないしっかりした感じがあった。へその緒を切る前に、おしっこを噴水のように2度もしてみんなを驚かせた。


誕生したことの喜びはもちろん大きかったけれど、3日越しのどきどきはらはらが無事に終わったことを安堵する気持ちの方が大きかった。
病院を出ると、空は晴れて星がいくつか輝いていた。午前2時過ぎの冷たい町を、自転車でふらふらと一人帰った。
向かいのコンビニで小さなケーキと缶コーヒーを買って家に入り、一人静かに
「息子よ、誕生おめでとう」
と祝ってから、眠りについた。


[fin]