小さなお祭り

頬張る娘



マンションで、初めて自治会主催のイベントが行われた。


今年我が家はフロアの自治会当番に当たっていて、自治会費の集金を初めてしたり、ちょっとした係会に出席したり、ということをしたのだけれど、そんな「係」の私たちにも「お祭り」告知のポスターは唐突だったから、自治会で中心になってやってくださっている方々が、この辺りで何かやっておかないと、という危機感から相当にがんばって企画されたのだろうな、と感じていた。


新しいコミュニティが突然にできることになる「マンション」は、なかなか自然発生的には人付き合いが生まれにくい。
私の住むマンションは再開発事業でできたもので、地の方々がある程度まとまって入居されているので、幸いにして、自治会としての体裁を作る部分は、その方々のおかげでスムーズに滑り出すことができた。
しかし、「新住民」とその方々がつながる場面はなかなかなく、自治会の総会や「子ども会」、「老人会」に参加している人たちの間でつながりが生まれるに留まっていた。


エレベーターの告知では、イベントは午後1時から2時間、会場となる中庭では11時から準備をするので子どもたちには「遊具のテストがてら遊びに来てね」と呼びかけられていた。
係でもあるし、何かお手伝いすることがあれば、と集会所に一家3人で10時過ぎに駆けつけた。賞品にする粗品がたくさん集められていて、熨斗を貼る作業が佳境に入っていた。男手が少なめで、机を運んだり、ヨーヨーを浮かすためのミニプールの空気入れや、輪投げ台を組み立てたりする作業を手伝ったりと、ほいほい飛び回った。
11時になると子どもたちがたくさん出てきて、いっぺんに賑やかになった。
相方がうまく声をかけて、ヨーヨーを釣るフックに、紙縒りをつける作業を手伝わせていた。


そのうちに、会場はだいたい準備が整った。始まるまでまだ1時間くらいあるので、娘にお昼を食べさせるのに、一旦引き上げることにした。
娘は、あちこちに顔を出して、自分も手伝っている気分で楽しく過ごしていたが、そのままお祭りになると思っていたようで、帰るのを随分嫌がった。じっくり説明をして何とか連れ帰る。


一通り昼食を食べて、1時前に再び会場に3人で戻る。
もうすっかり人が集まってきていて賑わいはじめていた。
準備をしていた人たちが、ソーセージや綿菓子、みたらし団子などの試作をしていたのだが、それがそのままもうなし崩しにお客に振舞われて、定刻前に祭りは自然に始まった。
役員を引き受けておられる、数少ないご近所のお知り合いがみたらし団子を焼く係をはじめていたが、他にも仕事があるようだったので、それを替わって引き受けることにした。
近くの和菓子屋さんから仕入れた串に刺さった餅とたれは、祭りで普通にならんでいるものとは違う、随分といいもので、相当においしかった。本格的なガスのグリルでさっと焦げ目が着く程度に焼くのは、ちょっとコツが要ったが、すぐに要領がわかってうまくできるようになった。
開いている場所はマンションの中庭で、他からは人は入らない。「おいくらですか?」なんて声を幾度もかけられたけれど、みんなで納めている自治会費をもとに開いているお祭りなので、今回のイベントに出ているものはみんな無料である。
粗品なんかを見渡しても、近くのいろいろな商店と、地に根付いてきた自治会の人たちはつながりを持ってられるらしいことがよくわかって、なるほどと感心させられた。


普段、なかなかコミュニティのために時間を割けていないから、こんな時くらいは、と張り切って「みたらし団子のおっちゃん」をする。
途中からはビンゴ大会も始まって、なかなかの盛況になった。並んでしていた綿菓子とみたらし団子の客足は、ちょっと波があったけれど、最終的には200本全てを出すことができた。


相方によると、娘はヨーヨーつりも輪投げも、すっかり意識は「準備する側」だったようで、もう見向きもせずひたすら食い気に走っていたらしい。お昼ごはんを食べてきたはずなのに、ソーセージ、綿菓子、みたらし団子と相当にたらふく食べたようだ。


残っていた子どもたちとわいわいと片づけ、ゴミ降しまでしっかりやって今回のイベントはあっさりと成功理に終了した。
今回のイベントをするに当たっては、いろいろ言う人もいたようで、中心になって働きかけていた人たちは、無事に終わったことに深い安堵をしめしておられた。多くの人が関わることについて、初めて何かをする、というのは大変なことである。


近くに住んでいるけれど、ほとんど知らなかった人たちと、顔を合わせ「何か」を一緒にした、というのは、とても大きなことのようで、エレベーターに乗っても、通路を歩いていても、景色が違って感じるくらいに、居る場所に対して親しみというか馴染んだ感じを覚える。
なかなか踏み出せない大きな一歩を踏み出す、とてもありがたい、いいイベントだったと思う。できることは限られるけれど、お手伝いできることはしながら「住み着いて」いきたいものである。


[fin]