絵本のエピソード


このごろは、保育園で毎日小さなプールに入る娘だが、園からは、水着・タオル・着替えの1セットをまとめた「プール用」の袋を用意するように言われている。
何かの景品でもらったビニールバッグをそれに当てていたのだけれど、素材やチャックがかたくて、自分で開け閉めするのが難しく、少し気になっていた。
先日、義母と娘が一緒にショッピングセンターに行く機会があって、きゅっと紐を引くと巾着のように口が締まる、小さなナップザックを買ってもらったようだ。
ピンク色のかわいらしいそれは、娘の最近一番のお気に入りで、


「これおばあちゃんに買ってもらってん」
「ここにポケットあんねんでー」


と、うれしそうに説明しながら背負っている。
こういうきっかけは、とても大きいようで、朝、自分でタオルや水着、着替えなどを箱から引っ張り出してきて、自分でナップザックにつめて、


「準備しといたでー」


と自慢げに見せてくれたりする。
もちろん相方が一応チェックするのだけれど、一通りちゃんと入っていたりするそうだ。


手ごろな大きさなので、つい相方が何気なく、水筒など他の荷物も放り込んでしまってそのまま玄関に置いていたら、娘がいつものように背負おうとして、


「ううー、きついー、ねずみくんのチョッキみたいやー」


と、ナップザックの重さに反り返りながら、変な声で唸ったらしい。
その様子と、とっさに「ねずみくんのチョッキ」に喩える絶妙さに、しばらく相方は爆笑してしまったという。
その話を聞いて、2歳にもなると子どもの情報処理能力ってすごいんだなあ、とまずびっくりしてしまった。


ねずみくんのチョッキ (ねずみくんの絵本 1)
「ねずみくんのチョッキ」というのは、なかえよしを氏による絵本「ねずみくん」シリーズの第1巻で、私の実家には3冊目まで置いてある。
ねずみくんのところにほかの動物たちがやってきては、トレードマークでもある赤いチョッキを、「いいねー」と誉めては「ちょっと着させてよ」と次々着てみせる。
どの動物もねずみくんより体が大きいのだが、「ちょっときついなあ」と言いながら無理やり着てしまう。
現れる動物はどんどん大きくなって、しまいにはシマウマやゾウまで登場し、ねずみくんのチョッキはブランコの紐のようになってしまった、というお話。
ナップザックは巾着状に引き絞る紐がそのまま肩紐になっているから、まさにゾウさんが着たときの「ねずみくんのチョッキ」とそっくりである。


泊まりに行くたびに読んでもらっているのだが、「その本の中の情景が今の状況と合っている」、とぱっと引き出せるんだなあ、と感心する。
すると相方は、「そう言えば」と、(これも私がいないときのことだが)義兄一家とプールに出かけたときに、プールサイドでずっと寝ている年配の夫婦を指差して、


「トントンのお父さんとお母さんみたいやなあ。」


と言ったのでびっくりした、という。
これは、相方の実家にある「トントンうみへいく」という絵本に出てくるのだそうだ。


こぶたのトントンが一家3人で海水浴に来てひとしきり遊んだ後、お父さんとお母さんは砂浜で昼寝している。
一人で砂遊びをしていると、砂地にぽこっと穴があいて、カニさんが「助けて」と飛び出してくる。
トントンがカニについて穴をもぐっていくと海の中に出る。そこでは乱暴者のサメが暴れて、みんなを困らせている。
トントンはサメを挑発して小さな岩穴に誘い込んで動けなくしたり、海草の林に突っ込ませてがんじがらめにしたりして、サメを追いはらう大活躍をする。
みんなに感謝されて砂浜に戻ってきたら、まだお父さんとお母さんは夢の中だった・・・、
というお話らしい。


周囲で子どもたちが水遊びに興じる中、延々と眠り続ける夫婦・・・絵的なシチュエーションは、よく合っている。
繰り返し読んでもらっている絵本が、いきいきとした「絵」となって子どもの中に息づくことを目の当たりにして、ちょっと感動する。


娘を乗せて運転していると、
「おっきくなったら運転したるわなー」
と、後ろから声を掛けられた。
うんうん。楽しみにしているよ。


[fin]