2日目・三姿勢120発


昨夜の激しい雨は少し収まって、静かな雨になった。
身体は重い。宿でのんびりしたために、隠れていた疲れが出てきてしまったか。
相変わらず射撃場の床は、水が乗ってべとべとだった。


淡々と用意をして試合開始を待つ。
すぐ隣に徳島県のK内さん、その隣にOB会長のHさん、そのさらに隣は同じ大阪のIくんと、お互いよく知った人たちで、射群の左端を固めるかたちになった。


伏射。
近畿団体のときに、何かひらめいた打開策があったわけではないので、同じ状況が再現されて、その中で考えることになるのだろう、と戦前に予測をしていたが、その通りになった。
状況自体を事前に「知っている」ために、慎重に押さえるべきところにエネルギーを注ぐと99でスタートできた。
このままがんばれるか、とも思ったのだが、時間と集中力を過剰に要していたので、点数的に下がることを覚悟しつつ手探りでモードを変えにかかる。


ここ2-3年の結論であるが、的を絞りきれずに、その時に気がつくすべての方面にベストを尽くす、というような頑張りかたはダメである。
うまくいっても、結局のところどこが良かったから良かったのか、積み上がっていかない。
ひとまず、やみくもにベストを尽くしてそこそこどうにかならないと、そういうことは言ってられないのだけれど、それで仮に結果が出て、その「総体」を「良し」としていては、結局、コンディションのコントロールや体力や集中力の絶対量に、結果を委ねるような勝負に陥っていく。
そこに洗練や本当の意味での上達は、あまりない。
「がんばり」の中に潜んでいる「過剰な要素」は、崩壊の火種でもある。


私の伏射は、やっと「やみくもにベストを尽くす」で手応えのある内容に届くようになって来たところであろうか。
モードチェンジはもちろんそうはうまく行かず、2・3シリーズは失点を増やした。
4シリーズ目になって、左半身のコントロール方法に手応えを得て、そこからは軽々とすべてセンターを並べることができた。
またひとつ有効なピースを得ることができたように思う。スコアは388。なんとか我慢できるぎりぎりのスコアである。


立射。
昨日のARで気になった、「自然狙点を構成する構造」に潜んでいそうな問題について、ちょっと今朝、宿の鏡の前でいろいろポーズを取りながら考えた。
新しいジャケットがフィットしなくて(結局は寝かせたままになっていて)困っているのだが、その時にあれこれやったのと少し似たことになった。
鏡に映る姿に、そこにはない銃のイメージを重ね合わせ、試合で感じた好ましくない感覚がどういうものだったか思い出していると、
「ははん。ひょっとして。」
というポイントがひとつ思い当たった。
頭の中で考える構造上のラインと実際のそれに、少し乖離のある部分が見つかったのだ。


SBでもそういうところは同じなので、早速ながら修正を試すのを最大の楽しみにして臨んだ。
どうもこれは当たりだったようである。
撃発後の銃の反応が素直になり、「よし」で弾着の幅が9.5くらいだったのが、ARのように完全に10点の中に納まるようになった。普通に10点が続く。その数ほぼ20発に上った。


・・・しかし、スコアは369だった。
いつになく大きな外しが多かった、というところだ。
10点を6発撃って92とか、5発撃って91とか・・・。最終シリーズの95だって8撃ってるし。
あとで振り返ると「10点が取れる」という状況に興奮していたこともあると思うのだけれど、ひとつぐっとよくなると、今までさほど悪いと思っていなかった部分が、急に見劣りがしてそこの悪さばかり気になる、みたいなこともある。
それ自体は決して悪くない「軸」であるが、それが地面に対してどうなっているか、どう大丈夫だと確信を得ているか、を把握するポイントが、そういえばないな、ということが急に気になった、というのがひとつの原因である。


最終シリーズで、「これにしとくと、いけそうかな」というのが右の足首周辺に見つかって、点数的にも少し落ち着いたので、次にはつながったかなと思う。


膝射。
徐々に改善してきているけれど、まだ、わかってるのかわかってないのか、という感じもあるこの姿勢。
結局のところ今は、「ニーリングロールの上に、銃や頭が来て、右肩が銃を押し出さず、自然狙点が的の方を向いている」、というような、大変基本的なことをきちんとやっているだけである。
今年、撃つたびに徐々に改善してきている手応えがあるのは、この「基本」のためにやっているつもりが実際はその邪魔をしていた、という「小さな誤った癖」を少しすつ取り除けてきたからに過ぎない。
今は、「伏射」のところの説明で言えばまだ「やみくもにベストを尽くして」取っ掛かりを探る、ような段階であろうか。
今日は379。トータル1136だった。


実に教訓的な、このあたりのスコアが今年は続く。
手応えを感じつつ、調子に乗ることなく引き締まっていいんだけれど。
やれやれ、これで今年の西日本も、あまり冴えずに終わっちゃったなあ、と思いながら片付けにかかった。


祖母の容態が心配であるが、圏外のこの射撃場ではそれを確かめる術もない。
以前に約束していた通り、今日来られたAさんのぴかぴかのマークXに乗せてもらって、早々に帰ることにする。


すると、全部のスコアを見て回っていたH氏に「おい、お前優勝やぞ」と言われた。
他の選手のスコアは、もっと冴えなかったらしい。みんなどうしてしまったんだ?


久しぶりのことで、ちょっとうれしかったけれど、家の事情を話して、最後まで残ってくださる大阪チームのメンバーに表彰式の事を頼み、頭を下げて会場を出させてもらった。


夜中に広島まで移動してきて撃ったAさんに代わって、広島のSAから運転を引き受けた。
まだ新車の香りのするマークXは、硬くてフィットするシートと地面に吸い付くような安定感で、疲れを忘れて運転できる快適さがあった。普段背の高い軽自動車に乗っている身には驚きの楽さ加減だった。
試合帰りの長距離移動は、いつも相当に辛いのだけれど、かなりあっさりと帰り着けた気がする。


[fin]