ISSF NEWS 1:2010

ISSF NEWS 2010-1



今号は、3月8日に届いていたのだけれど、なかなか目を通す時間がなく、すっかり遅くなってしまった。
服装に関する内容は、結構選手や指導者には身近で重要な内容であろうかと思う。
2009年のShooter of the Yearへのインタビューや、ISSFワールドカップ25周年の特集記事など、紹介は随分省略してあるけれど、面白い内容が多い号であった。


ISSF NEWS 1:2010

COVER PAGE


2009年のShooters of the Yearに選ばれたイタリアのトラップ射手ジェシカ・ロッシ(Jessica ROSSI)とハンガリーのライフル射手シディ・ペーター(Peter SIDI)。
最多得票だったロッシは昨年、弱冠17歳にしてマリボーで行われた世界選手権において、並み居るベテラン射手をなぎ倒し、女王の座についた、驚くべき才能である。その後ヨーロッパ選手権を制し、ワールドカップで二たび銀メダルを獲得した。
シディは、31歳。並外れた射手の一人と知られるようになって久しいが、昨年は10m・50m・300mすべてでメダルを獲得。ワールドカップで金1銀1、ヨーロッパ選手権では300mと50mの両方で三姿勢を制し、名実とも「ライフル・キング」となった。

ISSF ACTIVITIES -ISSF COMMUNICATION FEBRUARY 2010-


1月にミュンヘンで、緊急に役員と技術・ライフル委員会のメンバーでミーティングをしたという。その訳は、2009年11月8-9日に行われた技術・ライフル委員会の会議で用いたライフル射手の服装に関するメモが、手続きを経ずにインターネットで公開され、それをめぐる議論が巻き起こりつつあったためである。
ここに、ライフル選手の服装について正式な声明を発表して、内容を明らかにするとともに、競技外における服装に関してすでに発効している「ISSF Dresscode」の説明をあらためて行い、その遵守を促している。

ISSF STATEMENT REGARDING RIFLE SHOOTER CLOTHING

今回「流出」したドラフトについては、あくまでも会議における問題提起用のもので、公式な内容ではないことを丁寧に説明している。
その上で、最近の射撃ウェアには、現行の硬さ規定に抵触する素材が使われているものがあること、射撃用ズボンの中に、それ自体で自立し、多少の力を加えても崩れないものがあることに触れ、まずお尻の部分の補強について、それが背中の支持をしていると疑われるものを規制するルール解釈の採用を決めた、と述べている。


2005年以降、服装の規定について積極的に取り組んできたのは、IOC委員から「普通に歩くこともままならない服装」について疑義が呈されたことを契機にしており、射撃競技がスポーツとして存続する上で、この問題が非常に重大なものとなっているという経緯を解説し、前回の北京オリンピック前後の水泳における水着問題を引き合いに出している。
今年も引き続き、これらの取り組みを一層進める、とした上で、5項目にわたって具体的な服装に関する声明が記述されている。

  1. ISSFのライフル・技術委員会における提案は、最終決定までに複数のグループで慎重な議論や研究を経た上で役員会に上げられること。また、その過程では必ず選手・トレーナー・メーカーの意見を十分に考慮する、ということ。
  2. 今年も引き続き、ワールドカップシリーズおよび世界選手権の銃器検査では、厚さ・硬さ・柔軟性について、ルールに従って厳正にチェックを行うこと、ルール6.6.3の項に基づき、銃器検査ジュリーに、6.4.2.1.1の柔軟性の水準(射手の脚・体幹・腕を不当に動かなくしてしまってはいけない)についての判断を委ねること。
  3. ルール7.4.7.8.2.3にある、射撃ズボンのお尻の補強パッチについて。お尻の補強部分は、座ったときの底面部分に限り認める、となっているが、そのズボンのはき方について2010年から、きちんとすべてのベルクロやチャックを閉めて座ったときと定めること、これによって、少なくともウェストのすぐ下から補強が始まっているものについては「ルール違反」とすること、とある。示された図では、座面から5cm以内を目安とするらしいことが読み取れる。
  4. 射撃シューズの硬さについて。硬さを判断するひとつの方法として、銃器検査ジュリーは、射撃ジャケット・ズボン・靴をすべて完全に装着して、「普通に歩きまわれる」ことを示させることがある。膝が曲がること、足は踵から接地し、つま先より先に踵が地面から離れることが、その目安となる。
  5. 2010年12月に、ISSFの役員会・理事会・技術・ライフル委員会・選手会・コーチ・メーカーから集まってもらって「ライフル射手の服装に関する特別会議」を行うこと。あらゆる角度から議論し、ルールや検査方法についての提言を行うことを考えている、とのこと。
ISSF DRESS CODE
A RULE INTERPRETATION REGARDING SGOOTER'S CLOTHING

ルール6.4.2.1に、競技会において、選手は「公共性に鑑みて適切」な服装である責任を負っており、ジュリーがこれについての指導権を持っていることが示されている。
スポーツとして射撃が発展し、オリンピックムーブメントの中で役割を占めていく上で、メディアや公共の場面で、選手がアスリート然としていることや競技役員がプロフェッショナル然としていることは、重要なことである。
ISSFがIOCやメディアの役員と共同で、競技全体の評価作業を進める中で、問題となったのは、競技中や表彰式における一部の選手の服装、中でもジーンズや裾を切り落とした半パンツ姿についてであった(ピストルとクレーがおもに問題になった様子)。

CLOTHING REGULATIONS

こういった状況に対して、ISSFの役員会から、ルール6.4.2.1の解釈について以下のようなガイドラインを呈示するとともに2010年から発効させることにした、とある。
ガイドラインが示すのは以下の9項目。

  1. 選手は、公式練習・予選・本戦・決勝・表彰式を通じて、国際大会のアスリートとして適切な服装を身につけること。射撃選手がオリンピックスポーツの競技者としてふさわしい、という印象を与えるものでなければならない。
  2. 表彰式や式典では、選手は公式なユニフォームか公式なトレーニングウェア(運動靴までを含む)を着なければならない。チームメンバーのユニフォームは同じデザインのものでなければならない(6.17.5.5)。
  3. ピストル選手はルール8.4.5の規定に沿った服装であること。
  4. クレー選手はルール9.9.1の規定に沿った服装であること。
  5. ライフル選手においては、ルール7.4.6の規定に沿った服装であること。
  6. ISSFのピストルやクレーの服装規定が意味しているのは、競技会中、選手はナショナルカラーやナショナルエンブレムを呈示したスポーツタイプの服装を着用していなければならない、ということである。
  7. 特に以下の服装を競技会や表彰式において禁じる:ブルージーンズ・ジーンズ・それに類するスポーツ的でないズボン・ノンスリーブのTシャツ・短すぎる半パンツ・裾を切り落とした半パンツ・あらゆるタイプのサンダル類・穴や継ぎのあるシャツやズボン・スポーツウェアとして不適切なメッセージがプリントされた衣類(6.10.1)。
  8. 指定された場所以外で着替えてはいけない。競技会場内で着替えないこと。
  9. ロゴなどがスポンサーシップ規定に適合していること。


8.の着替えについては、「国際大会では女子選手でも堂々とその辺で着替えるものだ」といった、よくわからない逸話が、もはや過去のものであることをはっきり示している。7のサンダル・ジーンズ禁止とともに、着替えについても、今後うっかりすることのないように注意をしなければならなくなった感がある。

ENFORCEMENT PROCEDURE

これらのガイドラインを遵守させるために、以下の3つを徹底する、とある。

  1. ISSFの銃器検査ジュリーはISSF服装規定およびこのガイドラインを遵守させる責任を負うものとする。
  2. 2010年のワールドカップにおいてISSFジュリーは違反者に口頭の警告をするとともに、すべての警告について選手名・所属・警告内容を記録し、ISSFのテクニカルデリゲートを通じてISSFのヘッドクオーターに報告する。違反者の多い所属先には、ヘッドクオーターから是正勧告を行う。
  3. 2010年の世界選手権から、ISSFジュリーは、違反者に対して書面で警告を出し、従わなかった場合は失格とする。ジュリーは、おもに服装検査や公式練習において警告を行うものとする。公式練習で警告を受けた時は、是正に十分な時間がない場合、違反した服装のまま練習を続行することを認めることがある。

AWARDS&INTERVIEW

JESSICA ROSSI


COVER PAGEで紹介したとおりであるが、このジェシカ・ロッシという選手は、射撃界にとって、相当なスーパー・ヒロインの登場のようである。国際的な活躍をする若きヒロインというと、身近には宮里藍選手や浅田真央選手を思い起こすが、その背景は、スポーツが変わっても、国が変わっても同じで、周囲の人々の温かな支えや、練習を愛するまじめで熱を内に秘めたキャラクターが見え隠れする。


8歳から裏庭で、父の手ほどきを受けてショットガンを初めて撃ち、12歳で自分用の銃を手にすると本格的なトレーニングを開始。練習場までの100キロ2時間の道のりを母親が日々車で送迎した。2007年の世界選手権のジュニア種目でいきなり金メダルを獲得し、翌2008年からは、16歳にして成年カテゴリーでISSFのワールドカップに参戦。2戦目のズール大会で優勝。すぐに、年上の選手たちから「追われる」立場になる。昨年度の目覚しい活躍についてはすでに書いたとおりである。


シューター・オブ・ザ・イヤーは、彼女にとってはスタートでしかない。試合を振り返るコメントからは、パフォーマンスだけに没入するきわめて高い集中力を発揮していることが伺える。
この1月に18歳になったが、一番嬉しかったのは、法律上ショットガンを携行して旅行することができるようになって、自分の名前で銃を登録して遠征できることだという。


練習は、1週間に5日、数時間のトレーニングを行っていて、年間2万5千発から3万発を撃っている。
12歳で同年代の友人と一緒に学校に通うのをあきらめ、射撃に賭けることには、周囲への説明の難しさを伴ったし、ためらいもあったという。
憧れの選手は同じイタリアのトラップ射手ペリエロ選手。彼女の中ではアイドルだった彼と、今はチームメイトとなって戦えることをとても幸せに思っているという。夢はオリンピックでのメダル獲得、と言うが、間違いなくメダル候補としてロンドンの射座に立つであろう。

PETER SIDI


私のごくわずかな海外経験の中で、唯一といっていいほどコミュニケーションを取ったことのあるヨーロッパの選手、シディ・ペーターが、シューター・オブ・ザ・イヤーになった、というのは、個人的にとても感慨深い(と言っても、一緒にいた時間の長さの割に、大した話をしていな。情けないことである)。
ドナウ大洪水で大会は幻となったが、2002年に第1回World University Championshipの監督として選手を率い、ハンガリーで事前合宿をしたときのことである。(「監督」とは言っても、スーチャックさんが現地で8割方同行して下さったから、このときはアシスタントという感じだった)。ペーターとは、そこで一緒に練習したりハンガリー国内の試合に出場したりした。当時、大学を卒業したてだった彼も、もう31歳なのね、と今回の記事を読み始めたときに真っ先に思った。


今や、ワールドカップのライフル競技、中でもARにおいては上位の常連である彼が、国際的にトップスターに躍り出たのが、私たちが出会う直前にあった、ヨーロッパ選手権での金メダル獲得だったことを、今回初めて知った。これが彼にとって国際大会初の優勝だったのだ。
私たちがコマロムで合宿している間も、彼はさまざまな表彰に引っ張りだこで、大臣からの表彰をコーチのイシュトバンさんとともに受けてきた帰りには、日本チームとレストランで一緒にお祝いをした。
「表彰はとっても疲れた」、と本当に疲れた顔をしていたのが印象的だった。
私たちにとっては、雲の上の選手だということを、日々共にした練習や試合で痛感しつつも、彼が当時どのくらいのポジションで、キャリア的にどんな段階を迎えていたのか、というようなことはあまりわかっていなかった。
優しい笑みを浮かべつつも基本的には無口で、時にはすこし苛立ちのようなものも見せて、あまり打ち解けて交流するという感じにならないのを、私たちの力不足だと受け止めていたのだが、学生を終える時期に、一流選手としての一歩を踏み出し、その後をどうしていくか、いろいろ考えなければならない難しい時期だったのかもしれない、と今になって思う。


この記事では、ペーターがスカイ・ダイビングしている写真やレーサースーツに身を固めてバイクに跨る写真が目を引く。結構なスピード狂で、バイクレースに関心があることは、合宿で一緒に過ごしたときにも知っていたのだけれど、こうも射撃以外にもアクティブにやっているとは知らなかった。600ccのSuperStockというカテゴリーのレースに年間3-4試合は出場しているらしい。パラシュートの方は、年間100回ほど飛ぶとかで、こりゃあ大変そうだなと思ったら、1日に10回から15回のペースで年間数度まとめて飛びに行くらしい。


練習は基本的に午前と午後に一日2回。この2回という表現が、印象的だ。大きな試合前には3回の練習とフィジカルの備えに費やすという。試合のプレッシャーの中で実力を発揮できるかどうかは、40%くらいをフィジカルの要素が占めていると思う、とのことだ。
スロベニアのデベベック(Rajmond DEBEVEC)選手をもっとも尊敬するとともに、彼とは親交が厚く、2000年からおもに冬季は一緒にトレーニングをしているという。よく膝射はデベベックが撃って、立射はペーターが撃つようなチームマッチがあったらいつでも金メダルだな、というようなジョークをお互いに言っているという。


射撃は友人に誘われて14歳のときに始めた。2002年のヨーロッパ選手権制覇をかわぎりに、その後、彼は徐々に着実に実力を伸ばしてきた。2008北京オリンピックではファイナルに進出し、そして昨年度(2009年)の活躍である。
ロンドンでも主役の一人となることは間違いない。

COMPETITION


1月27日から30日に行われたIWK AIR GUN COMPETITIONについての記事。有名選手の成績を中心に取り上げながら、今年の開幕戦となる試合全体を紹介している。参加した選手から、今年の抱負なども聞いて、記事にしており面白い。

DOPING


THE ISSF INFORMATION PORTAL ON DOPING(THE ISSF IPOD)が1周年を迎えるにあたり、2009年を振り返るとともに、2010年も変わりなく取り組みを続けることが紹介されている。
競技外検査を強化すること・アンチドーピング教育の推進・ISSFと選手・各国の協会との緊密な連携の推進の3点を今後も重点的に意識して取り組んでいくとある。

ISSF WORLD CUP

今年は、ISSFワールドカップシリーズが始まって25周年にあたる。
これまでのさまざまな記録を特集記事として掲載している。最多メダル獲得はデベベック(Rajmond DEBEVEC)選手の66である、とか国別メダル獲得数では中国が1位だがライフルではアメリカが群を抜いているとか、金メダルに限ればやはりラルフシューマン(Ralf SCHUMANN)がダントツの39で、女子ではベセラ・レチェバ(Vesela LETCHEVA)が31だ、など写真もついていて、懐かしさもあってとても面白い。

NEWS


第50回世界選手権のスポンサーに、RWSが単独でつくことになったと伝えている。
またこのほかに、ゲーマンの新しいハンドストップ「840 ALLOY HANDSTOP」の紹介記事と電子標的のテスト結果が掲載されている。メガリンク(Megalink)・ポリトロニック(Polytronic)・シウス(Sius)・メイトン(Meyton)の4社、7機種について精度・構造テスト・試合環境下での適合性テスト・ISSF競技会における成績伝達システムへの適合性テストの3段階の評価結果が記載されている。


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